【里山仕事ラボ・イベントレポート】もうひとつの居場所はシェアから始まる。 石山アンジュ×松場忠が語る、 これからの暮らしと働き方

1/12(祝)〜1/13(火)の1泊2日で、『シェアライフ 新しい社会の新しい生き方 』『多拠点ライフ』の著者である石山アンジュさんを石見銀山 大森町に迎え、 群言堂代表の松場忠さんとともに、暮らしと仕事の中に息づく“シェア”のかたちを探すツアーを開催しました。

ツアーには、航空会社をはじめ二地域居住などに関心のある企業や個人から13名が参加、松場忠さんのアテンドで町を歩き、その後、トークセッションを行いました。

石山アンジュ(いしやま・あんじゅ)
一般社団法人シェアリングエコノミー協会 代表理事

シェアハウスで育つ。シェアリングエコノミーを通じた新しいライフスタイルを普及するほか政府と民間の間に立ちながら社会課題の解決に取り組む。国土交通省「全国二地域居住官民推進プラットフォーム」共同代表、関係人口や地方創生に関する有識者委員など、シェアを通じて持続可能な共助地域を創る「シェアリングシティ」を全国に広げる。デジタル庁シェアリングエコノミー伝道師。゙複数の番組でコメンテーターを務めるなど幅広く活動。趣味は大人数料理をつくること。

松場忠(まつば・ただし)
株式会社石見銀山 群言堂グループ代表取締役

1984年佐賀県出身。文化服装学院シューズデザイン科を卒業後、靴メーカーに靴職人として従事。結婚を機に現在の石見銀山生活文化研究所に入社し、群言堂の飲食店事業を担当。2012年に大森町へ移住し、広報や営業マーケティング部門などを経て2022年より現職。

世界遺産に抱かれた人口400人のまちを歩く

1/12(祝)の午後から始まったツアー。大森町にある滞在型サテライトオフィス「オフィス林家」に集合し、松場忠さんの案内で町を歩きながら、群言堂が古い武家屋敷を再生してつくった宿「他郷阿部家」や「石見銀山 群言堂本店」、武家屋敷の離れを園舎にした「大森さくら保育園」などを訪れました。

世界遺産の町並みを歩く。
群言堂の本社屋「鄙舎(ひなや)」へ向かう道を歩く。茅葺き屋根の家「鄙舎」は大森町の景観の一つになっている

2時間ほど町歩きをした後、15時30分から群言堂の本社屋「鄙舎」でトークセッションを行いました。トークセッションはオンラインでも参加できるかたちをとり、現地で参加しているツアー参加者に加え、約50名の方がオンラインで参加しました。

なぜ今、もうひとつの居場所(二地域居住)が重要なのか?

はじめに、現地参加者で国土交通省地方政策課二地域居住政策推進官でもある酒井達朗さんから、二地域居住をめぐる国の政策や最新の動きについてご紹介いただきました。

酒井さんは、二地域居住は「新しい暮らし方の選択肢」とし、都市と地方、または複数地域を行き来しながら暮らす二地域居住には、人口減少社会で人を一極集中させずに「関わりをシェアする」という社会的意義があると言います。

多様な働き方や暮らし方を実現できることや災害時のリスク分散としての効果に加え、「二地域居住は人が行ったり来たりすることによって、地域の人の考え方をシャッフルさせることができる。地元の人にとっても新しい価値観などに触れる機会になる」とし、二地域居住は地元の人にとってもメリットがあるということをお話いただきました。

その上で、地方創生全般に関わる二地域居住を横断的に取り組むために立ち上げた「全国二地域居住居住等促進官民連携プラットフォーム」を紹介。プラットフォームを使って二地域居住のさまざまな可能性を引き出していきたい、官民が対等に関わるプラットフォームをうまく活用してもらえれば、と語りました。

石山アンジュさん×松場忠さんのトークセッション

石山アンジュさんと松場忠さんのトークセッションでは、3つのテーマに沿って進められました。トーク内容をダイジェストでご紹介します。

⚫︎テーマ1
シェアの観点で石見銀山を歩いて、一番引っかかった風景・人・空気感はどんなところでしたか?

石山:世界遺産を守り続けるためにいろいろな制約があると思うんですけれども、その世界遺産をむしろ生かして、暮らしを更新し続けている。編集できる「余白」がものすごくある町づくりをされているという印象です。

二地域居住に関して言えば、中長期滞在や移住という選択肢のほか、保育園留学「遊ぶ広報」という仕事として関わる余白があって。関わる人の多様なペルソナを想定した選択肢があるので、いろいろな人がこの地域に何かをシェアできる余白を見つけやすい町だと感じました。

松場:私たちがすごく大事にしてるのは、更新し続けることなんです。常に何かが新しくなっている。それは見たことのない新しさではなく、「懐かしい新しさ」を感じていただけるような。家で言えば、毎日家の窓を開けて風が通ってるような家です。それが、居心地の良さにつながっていくのだと思っています。

石山:ぜひ聞いてみたいなと思ったのが、マンホールや看板など所々で、地域の方々と一緒にこの町の編集の合意形成をしていました。いろいろな方がいる中で、どうやって合意形成していたのかが気になっていました。

松場:私たちの町には住民憲章があり、町の人たちと共通の目的感を持っていることが大きいと思います。群言堂はこの町では大きい組織ですが、私たちもイチ住民であり、自治会の中でも同じ目線をもって議論をしています。 普段はビジネスの場にいるので、ビジネス視点だけで見てしまうと見落としがちなところを、町の人から意見をいただき気づかされることが常にあるんです。町の人たちの合意を得ながら進めていくことは、時間がかかったり、非合理的なことがあったりもするのですが、そのプロセスを経ることで保たれる温度感や価値観があると思うので、そこはすごく大事にしていきながらやっています。

大森町民が世界遺産石見銀山遺跡を守り、活かし、未来に引き継いでいくために、町の在り方を定めた「石見銀山大森町住民憲章」の前で。

石山:なるほど。住民憲章があって、イチ住民としてビジネスをされているから合意形成も行いやすいんですね。町を歩いていてもう一つ思ったのは、空気としてお金のにおいがしなかったことです。例えば観光地は、人を呼び込むために店の看板があちこちに出ていたりするじゃないですか。そういうものはなかったし、空き家の改修リノベーションとなると数千万単位のお金がかかるので、お金のにおいがしてくる側面があると思うんですけど、それも感じなかったのが不思議でした。

松場:高そうに見せることがゴールじゃなくて、幸せになること、豊かになることをゴールにしているからだと思います。高級感はないけれど、豊かさを感じる。そういうことが大事だと思っているので、そこの感覚は常に判断しながらやっています。古民家を直したり、町の景観に合わせたりすることは、新たに立派なビルを建てることとは違います。あるものを生かしながら、そこの中を更新していく作業なので、外から見るとちょっときれいに直った程度なんです。そういうことが、お金のにおいがしないということにもつながっていると思います。

石山:これまでの日本経済は、新しいものを新しい資源で作っていくリニア型の経済で、「新しい」ことがビジネスの優位性になっていました。新しいものを販売して経済を回してきましたが、環境問題のこともあるし、それでは限界があることがわかってきたんです。どのようにしてあるものを生かしながら経済と未来の暮らしを両立させていくかという中で、「シェア」という考え方が今の時代に必要とされてきているのを感じます。

松場:そう思います。例えば私たちは、空き家の一つ一つがホテルになっていけばいいという考え方で取り組んでいて、空き家を改修した「中長期滞在」は群言堂の生活観光事業の一つの柱になっています。また、私が今着ているこの藍染のシャツは、先代が10年ぐらい着ていた白いシャツを染め直し、傷んでしまったところを補強し直した1着なんです。今までだったらゴミになっていたものを、全く違う切り口で再生させて、わくわくするものに仕立てていく。「クリエイティブリペア」とか「創造的再生」という言葉がしっくりくると思うのですが、こういうことに対価が払われていく時代になると面白いですよね。

というのも、アパレル業界は環境汚染産業第2位などと世の中では言われていて、非常に罪深い産業なんです。新品を作らずに成り立たせるのは難しいかもしれないけれど、せめて自分たちが生み出したものがもう1回循環できるようなものづくりは目指していかなきゃいけない。シェアリングエコノミー的な発想でマインドセットすれば、いろいろな動きが変わってくるんじゃないかなと思っています。

⚫︎テーマ2
これからのローカル社会において、「地域で暮らしながら働くことの魅力」をシェアという考え方を通して、どのように再定義、デザインしていきたいですか?

松場:島根県大田市では、特定地域づくり事業協同組合制度という国の制度を活用した「ひとまち」という取り組みを数年前から行なっています。どういった取り組みかというと、学童で働く人材が必要だけど、学童は夕方だけなので正社員雇用はできない。そこで、その組合制度を活用して地域で正社員として雇い、雇われた人は朝から夕方までの時間は例えばパン屋などで働き、夕方からは学童で働くことで生活を成り立たせるというものです。地域で人材をシェアするという考え方ですね。そういう働き方をしている登録ワーカーが現在は8名いるんです。

石山:私が二地域居住をして思ったことは、全く知らない地域で二地域居住をしていくためには、自分を自己紹介できる名刺があった方が地域に関われるってことです。なので、地域に関わる「なりわい」を町が用意できるというのは、すごく大事な視点だと思います。 

今日、町を歩いている中で、この町に料理人が増えたという話をされていました。他の地域では料理人がいなくて旅館を閉めざるを得ないということが大きな課題になっていたりするので興味深かったです。

松場:石見銀山の温泉津(ゆのつ)エリアで料理人が増えたのですが、それは、温泉津にシェアキッチンがあったからなんです。 そこに料理人がきて、2週間とか1カ月間、出張レストランができるという座組がありました。ある時、「遊ぶ広報」で訪れていた料理人が、遊ぶ広報がてら出張レストランをやったことで広まって。この町なら食材もいいし、町のコミュニティもあるし、家賃もそれほど高くないから経営が成り立つということで、料理人の移住や出店が増えたんです。要はシェアできる場と職種がかみ合えば、そういったことが起きるんですね。

石山:「遊ぶ広報」のように、「遊ぶ料理人」とか「遊ぶ保育士」みたいに職種ごとに取り組んだら、いろいろな業種の二地域居住者が生まれそうですね。

町歩きで立ち寄ったパン屋で話を聞いた。

⚫︎テーマ3
地域で働きながら暮らしたいと考える人たちに対して、シェアの考え方や具体的な事例を活かしながら、私たちはどのような「支援のかたち」をつくることができるでしょうか?

石山:顔が近い地域での暮らしって、どこまでいっても幸福度を左右するのは人間関係だと思うんです。これからどんどん、いわゆる田舎で育った経験がない、おばあちゃんちも都内にあるみたいな世代が増えていきます。都内で暮らし、ご近所付き合いというものを知らない人たちが地域に飛び込んだときに、どうしたらそこでの人間関係に悩まず、顔の見えるコミュニティの恩恵を供与しながら生きていけるか。ソフト面での環境づくりが非常に重要になってくるんじゃないかなと思います。 

難しいのが、どれぐらいの距離感が心地良いかは100人100通りなんですよね。100人100通りの人間関係の居心地の良さみたいなところを、いかにグラデーションを作って、いろいろな場や機会を用意できるか。群言堂さんはすでに実践されているんだろうな、と思いました。 

松場:この町は家が密に建ち並んでいることもあり、人と人の距離感が近いと思います。そういった意味では、ちょっと背筋が伸びる部分もあるんです。例えば、家に人を呼ぶときは掃除するじゃないですか。そういうことと一緒で、ちょっとした負荷があることで、自分の背すじが伸びる暮らしというのはいいと思うんですよね。

この町では軒先に花を生けてる方が多いんです。それはお互いが町の景観を思った振る舞いをしていて、それがだんだん自分たちの日常の暮らしのベースになっているから。そして、今日も花を生けてるから、あの方は元気だねといった感覚の共有にもつながっていくんです。いいコミュニティって、価値観はそれぞれ違っても「お互い様」の心を持っている。一つの集合体として、ゆるさを持ちながら関わることが大事だと思っています。 

石山:今日お話を聞きながら、住民憲章やいろいろな場を両輪で回しながら、コミュニティを育てていく仕組みと環境があることは、すごく先進的な事例だなと感じました。

松場:急加速的ではなく緩やかに取り組んでいくことで、一つ一つの課題に向き合いながら最適解を出していく。最大化を目指すのではなく最適化を目指して更新し続けるということがキーワードになるだろうと改めて感じています。

トークセッション後は質疑応答の時間が設けられ、オンラインや会場参加者からの多様な質問に、お二人がそれぞれ答えてくださいました。

その後、「他郷阿部家」に場所を移し、おいしい食事やお酒をいただきながら懇親会を行いました。大きなテーブルを囲んで、思い思いに話をしながら関係性を深める時間となりました。

群言堂を立ち上げた松場登美さんと。
おくどさんの火起こしに挑戦する石山アンジュさん。

参加者のみなさんは、そのまま他郷阿部家に宿泊。翌日1/13(火)は温泉津町の町歩きを行い、ツアーは終了しました。参加者アンケートでは、次のような感想が寄せられました。

ーー自分だったらどうやったら二地域居住ができるかを考えながら拝聴しました。固定費である交通費滞在費を全て持ち出しでは長続きしない、本人が気がついてないビジネスがある、幸福度を左右するのは人間関係、確かに!と思いました。落とし込んで考えてみようと思います。

ーー日頃からご近所づきあいは切っても切れないテーマですが、地方での暮らしにおいても改めて大切なのだと感じました。距離の近さを理由に都会を選ぶ人もいると思いますが、「百人百様の距離感」を尊重することで、優しいコミュニティが成り立つのではないかと共感しました。

人と人がゆるやかにつながり、まち全体を一つの「暮らしの場」にしている大森町。人口約400人の小さな町で、すでに始まっていたシェアする暮らしを体感し、新しい生き方、暮らし方へのヒントを得る機会となりました。

(クレジット)
写真/郷原翼、田平由里子
文/丸山ひとみ

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