里山の風景のなかに建つ「吉山BIANCO」

人が来る場所を探すのではなく、自分たちが目的地になる。食を通じて地域に頼られ、働きがいを育てる会社|株式会社EVENTOS

広島市安佐南区の戸山(とやま)地区。市街地から山あいに入ったこの一帯の、吉山(よしやま)と呼ばれる場所に、田畑と山に囲まれた、静かな集落が広がっています。

その土地に根を張り、食を通じて地域に笑顔を増やし、豊かさと誇りを育て続けている会社があります。

株式会社EVENTOS。パーティーケータリングを軸に、レストラン運営、産直市、自社農園までを手がけ、生産者と消費者をつなぎながら、安全・安心で豊かな食体験を地域に届けてきました。

ケータリングを軸に、レストラン、産直市、自社農園までを一貫して手がける
ケータリングを軸に、レストラン、産直市、自社農園までを一貫して手がける

人の流れが穏やかで、自然豊かなこの地で、代表の川中英章さんが考えたのは、「人が来る場所を探すこと」ではありませんでした。

「自分たちが、お客様の目的地になればいい」

川中さんは、そう語ります。

生産現場に近づき、地域の人たちと関わり合う。そして「この会社があってくれてよかった」と、頼られる存在になる。その取り組みは地域づくりにとどまらず、社員の定着や働きがい、そして若い人が「ここで働いてみたい」と思える会社づくりにもつながっていきました。

今回は、その会社づくりに長く取り組んできた株式会社EVENTOS代表の川中英章さんに、お話を伺いました。

株式会社EVENTOS 代表取締役・川中英章さん
株式会社EVENTOS 代表取締役・川中英章さん
川中英章さん

株式会社EVENTOS 代表取締役。1988年、広島市でイベント会社としてEVENTOSを創業。「from farm to table(農園から食卓まで)」をコンセプトに、ケータリングを軸として、レストラン、産直市、自社農園、ワインショップまでを一貫して手がける。広島市安佐南区・吉山での飲食事業と産直市、島根県江津市・有福温泉の再生に向けた取り組みへの参画など、「食を通した地域活性化業」に取り組む。2020年、経済産業省「地域未来牽引企業」に選定。

人通りの少ない場所だからこそ、自分たちが目的地になる

創業から20年が過ぎた2008年ごろ、川中さんが抱えていたのは、“良い会社”になれないという悩みでした。当時のEVENTOSは離職率が高く、新卒採用も行っていません。即戦力となる経験者を採用するのが当時の一般的なやり方で、EVENTOSもそれに倣っていました。けれど社員は定着せず、売上が上がっても利益は減っていく。そんな状況に陥っていたといいます。

「同業他社がやらないことをやりたい」。川中さんはそう一念発起し、会社の革新に踏み出します。

ちょうどその頃は、食の安全に関わる問題が社会で相次いだ時期でもありました。生産の現場にできるだけ近づくことが、社会から認められる会社への道ではないか。そんな思いから目を向けたのが、地方という環境でした。“食の生産現場”に近い場所で事業を行いたい。そう考えた川中さんが足を踏み入れたのが、現在の事業の中心地である吉山です。

けれど、そこは決して人通りの多い場所ではありませんでした。それでも川中さんがそこに見たのは、地方ならではの大きな可能性でした。

「自分たちが目的地になる、そういう覚悟があればどこでやってもいいんじゃないかと。そういう価値観を生み出す会社であれば、1人でも多く足を運んでくれるんじゃないかと、こういうふうに考えたのが一番の始まりです」

里山の風景のなかに建つ「吉山BIANCO」
里山の風景のなかに建つ「吉山BIANCO」

2012年、地元農園の新鮮な野菜を使うイタリアンレストラン「吉山BIANCO」を開業。2016年には、産直市を併設した「Oishï吉山」を開きました。その後も地域に根ざした事業を次々と展開し、広島にとどまらず、島根県江津市の有福温泉の再生に向けた取り組みにも参画しています。

2016年に開いた、産直市を併設する「Oishï吉山」
2016年に開いた、産直市を併設する「Oishï吉山」
島根県江津市の有福温泉に開いた「有福BIANCO」
島根県江津市の有福温泉に開いた「有福BIANCO」

人が多い場所に店を出すのではなく、「時間をかけてでも行ってみたい」と思ってもらえる場所を、自分たちでつくる。この考え方が、その後の会社づくりにもつながっていきます。

店のすぐそばを流れる川。「時間をかけてでも行ってみたい」場所を、自分たちでつくる
店のすぐそばを流れる川。「時間をかけてでも行ってみたい」場所を、自分たちでつくる

「働く価値」をつくることが、人の定着につながる

かつてのEVENTOSは、社員が定着しないことが大きな課題でした。川中さんがたどり着いた答えは、「働いているうちに、仕事の価値を見出せていない」ということでした。

「現代ですと、休日の数や有休取得率が重視されますが、それらが定着の必須条件じゃないっていうことが理解できたんです」

もちろん、賃金や休日、有給休暇の取りやすさは、働くうえで大切な条件です。しかし川中さんは、それだけで人は働き続けられないことに気づきました。誇りを持てて、人から頼りにされる仕事をしたい。その実感こそが、働く人の意思決定を左右するのではないか。そう考えた川中さんが目を向けたのが、地域と“連携すること”でした。

地域から「頼られる会社」になる

地域住民との連携は、社内にない力を補うためだけのものではありません。自分の仕事が地域の人にとってどんな意味を持つのかを、社員自身が実感するためのものでした。「君たちがいてくれて嬉しい」。そんな言葉が聞こえてくる環境づくりに、川中さんは徹底して取り組みます。

地域の産直市への参加。記念日や誕生日、法事といった場面で使ってもらえる場づくり。そして、地域行事への社員の参加。なかでも効果が大きかったのが、地域の学校の運動会でした。保護者参加型のリレーは、走者のほとんどが生徒の祖父母。そこに社員が加わったことで、あるチームは15年ぶりの勝利を手にしたといいます。お正月には各家庭にお弁当を届けるなど、EVENTOSは地域の人たちの暮らしのそばに在り続けてきました。

地域の田んぼに立つEVENTOSのスタッフたち
地域の田んぼに立つEVENTOSのスタッフたち

「そうすると、『ああ、自分たちはこんな風に役に立っているんだな』と、社員の方々も感じられるんですね。連携というのは、“当てにされる存在になる努力をする”こととも思ってやっています」

「君たちがいてくれるから、こんなことが起こっている」。そう声をかけてもらえることで、社員は「誰かの役に立っている」と実感できます。

地域との連携は、地域貢献であると同時に「頼りにされる努力」でもある。そしてそれは、社員が「必要とされている」と感じる機会にもなっていたのです。

新卒採用へ。20年続いた会社の文化を変える

採用の方針も、大きく変わりました。現在は正社員のおよそ76%が新卒入社です。中途採用を否定しているわけではありませんが、結果として新卒中心の構成になりました。

もちろん、新卒採用を続けさえすれば会社が変わるわけではありません。EVENTOSでは「チャレンジミス」という、挑戦した結果の失敗を評価する独自の仕組みを設けました。他にはない会社の価値をつくりたい。川中さんは、力強く言葉を重ねます。

「新しい価値を作る会社は、そういうことをするべきではないか。要は、理念や方針を理解した上でやってくれることは、技術に勝ると思っているんです」

技術を磨くことは大前提。そのうえで、理念や方針を理解して仕事をしてもらうことを大切にしています。当時は体感で、3年以内に8割ほどが辞めていく状態でした。近年は、正社員に限れば退職はほとんどありません。EVENTOSは現在も、毎年新卒採用を続けています。1年経てば後輩が入り、自分は先輩になる。その循環が、自然とできあがっているのです。

Oishï吉山のフロアスタッフ。現在は正社員の約76%が新卒入社
Oishï吉山のフロアスタッフ。現在は正社員の約76%が新卒入社

「1年経つと先輩になる環境は、自分の成長も実感できる。1年経つと先輩らしくなれたかも、と思えることは、すごく大切だと思うのです」

社員一人ひとりが成長を実感できる環境も、少しずつ整えられていきました。

“成長できる会社”を仕組みにする

長く働き続けるためには、「ここで成長できる」と思えることも欠かせません。EVENTOSでは、研修やキャリアマップに加え、資格取得を支援する独自の「選択科目」という制度を設け、社員が自分で将来を描ける環境を整えています。

この考え方は、若い人材との出会い方にも表れています。

たとえば、管理栄養士を目指しながら、本当は「料理で目の前の人に喜んでもらいたい」という思いを持っていた学生。そうした学生を、川中さんは何度も見てきました。しかし管理栄養士の求人は、栄養管理や安全管理といった役割が中心です。そこしか見えていなければ、学生の希望と会社の仕事は結びつかなかったかもしれません。川中さんは大学の授業で、その希望は飲食業のなかでも実現できるのだと伝えてきました。

ワインショップの店長。資格取得を支援する「選択科目」が、社員が将来を描く手がかりになる
ワインショップの店長。資格取得を支援する「選択科目」が、社員が将来を描く手がかりになる

「飲食業だけど、栄養や安全面でこういうところに気遣ってますとか、元気が出ますとか、そんなことをメニューに添えれば良いんじゃないか、こんな案を出してみたんですね。まさに同業他社さんがやらないことで、目の前の方の未来像というものを提案しました」

その人がどんな未来を生きたいのかを考え、その未来と仕事を結びつけていく。こうした考え方が、EVENTOSと未来ある若者との出会いにつながっていたのでした。

求人広告に頼らず、若者との接点をつくる

EVENTOSでは、一般的な求人情報誌を使った採用活動を行っていません。その代わりに力を入れているのが、大学での講義と、会社の働き方を伝えるパンフレットの設置です。広島県内のほぼすべての私立大学で年間10〜12回ほど授業を受け持ち、そこから応募につながることもあります。レストランを訪れた人がパンフレットを手に取り、子どもに伝えて応募につながったケースもありました。働き方や価値観、その会社で描ける未来まで伝えることで、興味を持ってくれる人が増えていきました。

一方で、地方企業の多くは、若い人たちとの接点がないという課題を抱えています。川中さん自身も、近隣の高校で授業を行った際に、多くの生徒が一度は都会に出てみたいと考えていることを実感したといいます。だからこそ川中さんは、若いうちに地域での「思い出」をつくることが大切だと考えています。

「生きていくのであれば、ここがいいって思ってもらえる思い出を高校生のうちに作ってあげないといけない。思い出のない所に人は帰ってこないと思っています」

高校生のうちに地域の大人や企業と接点を持てば、その土地で生きる未来を想像しやすくなる。そうした関わりが、いつか戻ってきてくれる可能性にもつながると、川中さんは考えています。

地方で“働く幸せ”は、数字だけで測れない

ここまでの取り組みの根底にあるのは、「働く人に不安を感じさせない、幸せにしたい」という川中さんの思いです。

「誇りや働きがいが無い限り、数字の面が良くても幸せを感じにくい、と思っています」

川中さんが大切にしているのは、人から頼りにされ、ありがとうと言ってもらい、人の役に立っていると誇りを持てることです。

「美味しかったと言われるのは、もちろん嬉しい。ただ、それだけで終わらず『良いことをしてるね』と言ってもらえることを目指したい。人は、美味しいものは苦労してでも手に入れるものだと思っています。その上で、良い仕事をし、周りの人たちを集めることで地域に還元することができると。これが僕たちの考える、食を通した地域活性化です」

味に手を抜くわけではありません。美味しさは当たり前のこととして磨いたうえで、「良いことをしているね」と言ってもらえる会社を目指す。それが川中さんの考え方です。

その言葉は、産直市の風景にも表れています。「Oishï吉山」では、地元農家が育てた野菜を買い取って販売しており、開業当初に5〜10軒だった取引農家は、現在では100軒ほどにまで増えました。自分で育てた作物が売れることは、高齢の生産者にとって張り合いになります。自分たちの仕事を通じて人が集まり、地域にお金が還元され、暮らしが少しずつ豊かになっていく。それこそがEVENTOS、そして川中さんが考える「食を通じた地域活性化」なのです。

産直市に並ぶ吉山の野菜。取引農家は開業当初の5〜10軒から約100軒に
産直市に並ぶ吉山の野菜。取引農家は開業当初の5〜10軒から約100軒に

地方の会社だからこそできる、人と地域の未来づくり

人が来ないなら、自分たちが目的地になる。地域から頼られる会社になる。そして、働く人が「ここで働いていてよかった」と思える環境をつくる。EVENTOSは、こうした一つひとつの取り組みを、大きな覚悟とともに積み重ねてきました。

その先にあるのは、地域の中に人が集まり、仕事が生まれ、暮らしが続いていく未来です。そのために、まずは働いている自分たちが幸せになり、その姿を見せていくこと。

地方で働くこと、地方で会社を続けていくことの可能性は、そのようなところに宿っているはずです。

写真提供:株式会社EVENTOS

株式会社EVENTOS

設立:1988年10月
所在地:広島県広島市中区舟入中町4-35
事業内容:ケータリング業(催事の企画・立案・運営)、レストラン、産直市、ワインショップ、惣菜販売、宿泊業、地域活性化業
Webサイト:https://www.eventos.co.jp/

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