ビルの一角やオフィスの地下、飲食店の店内、そして福祉施設。ふと目をやると、みずみずしい葉物野菜が光を浴びて、元気に育っています。土を使わず、電源と水さえあればどこでも設置できるスマート水耕栽培システム。この仕組みを通じて都市の未活用空間に「超地産地消」の未来を描こうとしているのが、OYASAI株式会社です。
代表取締役である國村隼太(くにむら・じゅんた)さんは、事業の根底にある想いをこう語ります。
「OYASAIの大枠のコンセプトは、街の中に畑をどんどんインストールしていくことなんです。街に畑があるのが当たり前になれば、日常を過ごしているだけで、気づいたら誰もが農業に関わってしまっている。そんな状態を作りたいんです」
OYASAIが展開しているのは、業務用水耕栽培ユニット「OYASAI FARM(お野菜ファーム)」と、障がい者雇用や福祉現場に特化した「OYASAI SUPPORT(お野菜サポート)」の2つ。使っているユニット自体は共通のもので、空きスペースを有効活用したい企業や、採れたての野菜を提供したいホテル・レストラン、福祉施設など、導入先は多岐にわたります。
國村隼太(くにむら・じゅんた)さん
水耕栽培農家としての現場経験を経て、2025年4月にOYASAI株式会社を創業。AI活用のスマート水耕栽培システムを軸に、自治体・福祉・飲食等と連携した都市型の地産地消モデルを推進。福岡県知事賞受賞、品川区アクセラレーター登壇など実績多数。

大型植物工場ではなく、あえて「小規模」に挑む理由
水耕栽培と聞くと、郊外に建つ巨大な植物工場を連想する人も多いかもしれません。しかし、國村さんは「従来の大型モデルとは、まったく逆のアプローチをとっている」と説明します。
「これまでの植物工場って、郊外に何十億、何百億というお金を投じて巨大な施設を作るケースがほとんどでした。それだけの初期投資が必要だと、大企業しか参入できない。しかも、その大企業すら失敗してしまっている。誰もチャレンジできない仕組みじゃ、農業の裾野は広がらないじゃないですか」
大規模投資の壁を壊し、誰もが参入できるハードルまで下げること。それが、OYASAIの出発点でした。國村さん自身、もともと5年ほど水耕栽培の農家として働いていた経歴があると言います。
「僕自身、小規模な畑でも工夫次第でしっかり収益化できるという体験がありました。どんなビジネスも、利益が出ないと絶対に続きません。だからこそ、最小限の投資でしっかり収益が出る仕組みを作ろうと考えたんです」
天候不順や高齢化といった日本の農業が直面している厳しい現実。そんな中で國村さんは、農薬不使用で安全な野菜を安定して届ける手段として、水耕栽培の可能性に行き着きました。ですが、その原点にあるのは、もっと純粋な体験だったと振り返ります。
「根本を辿ると、自分で種をまいて、次の日に芽が出て、成長していく姿に感動しちゃったんです。小学校の授業でトマトを育てたりしても、それ以降、野菜を育てる機会なんて普通はないじゃないですか。でも、自分が食べているものがどこから来て、どうやって育つのかを知るのはすごく楽しいし、自分で育てた採れたての野菜って、本当に美味しい。農業の楽しさや野菜の美味しさを一人でも多くの人に知ってほしかったんです」

育てる体験が生む新しいコミュニケーション
OYASAIが届けているのは、単なる野菜の栽培機器ではなく、「育てる」「収穫する」といった体験。この体験がさまざまな場所で変化を生み出しています。
オフィスに設置したケースでは、一緒に野菜を育てる体験を通して、社員コミュニケーションによい影響をもたらしているそう。
「自分でまいた種がどうなったか、やっぱり気になりますよね。定期的に様子を見に行くことで、オフィスの出社率が上がったりするんです。『どの種にしようか』なんて会話も自然と生まれる。野菜が人と人の会話を生み出すような装置になるんです」
オフィスやレストランでは、食べる人がその場で野菜を収穫して皿に盛り付けるような体験も行われています。
「イチゴ狩りに近いですよね。スーパーで買って食べるイチゴと、イチゴ狩りで食べるイチゴって、全然違う。鮮度や美味しさはもちろんですが、『収穫する』という体験が一つ加わることで、思い出として残るんです」

福祉の現場に届ける、働く「やりがい」と「誇り」
OYASAIのスマート水耕栽培は、就労支援施設や障がい者雇用(農福連携)の現場でも導入されています。そして、福祉の現場のニーズに応える形で生まれたのが「OYASAI SUPPORT」でした。
2026年7月に、民間企業の障害者法定雇用率が2.7%へ引き上げられたこともあり、多くの企業が障がい者の働く場づくりという課題に直面。障がい者の方がやりがいをもって働ける仕事をどう確保していくか。水耕栽培は、この課題を解決する新しい一手として注目されています。
「障がい者雇用で重要なのは、作業のしやすさと、成果がしっかりお金になることです。水耕栽培の作業は、手順がわかりやすく、作業のクオリティも差が出にくい。だからハンディキャップがある方も、対等にチャレンジできるんです」
働く人の心に変化が現れることも。
「自分で育てた野菜って、成長がわかりやすく見えるんです。筋トレすればするほど腕が太くなるみたいに、やればやるほど成果が出るから、仕事としての満足度も高い。『仕事が楽しい』『やりがいがある』『自分の力が発揮しやすくなった』といった利用者さんの声をいただいてます」
OYASAIでは、福祉の現場で育てた野菜を、五つ星ホテルへ納品・提供するスキームも構築しています。
「OYASAIの販路ネットワークを使って、育てた野菜を最上級の五つ星ホテルへ届ける。自分たちの野菜が最高の場所で提供されることは、働く方々の誇りにもなりますし、工賃の向上にもつながっています」

0.5畳から始められる、持続可能なビジネス設計
OYASAIのユニットは、わずか0.5畳(1台分)のスペースがあれば設置可能です。屋内で、電源と水さえあれば天候や地域を問わず稼働します。
「今、ご依頼が増えているのが沖縄なんです。沖縄は高温多湿で台風も多く、外での栽培が難しい。結果として九州から船で野菜を運ぶため輸送コストがかかるし、天候で物流が途絶えてしまうこともある。でも、屋内の水耕栽培なら、年間を通して安定して野菜を育てることができます」
華やかなスタートアップ企業に見えるOYASAIですが、その経営は堅実です。 現在、國村さんを含めてメンバーはわずか4人。にもかかわらず、水耕栽培業界でトップクラスの成長スピードを見せています。
その最大の理由は、「外部資本からの投資を受けず、自分たちの売上だけで事業を回している」点にあります。
「僕たちは投資を受けて一気に拡大する手法をとっていません。自分たちの売上だけで勝負しています。なぜなら、農業を知っている僕たち自身がこの事業で稼げていないなら、導入してくれるユーザーさんが稼げるわけがないからです。いくら綺麗事を並べても、ちゃんと回収できて利益が出ないと、続けられないんですよね」
だからこそ、導入前の段階から、一社一社と丁寧に向き合っています。商談では5年後、10年後のビジョンやKPIを徹底的に擦り合わせます。目的が曖昧な案件や、無茶な規模だけを求める問い合わせはお断りしているといいます。
「ただユニットを売りたいわけじゃないんです。ユーザーさんに伴走して、その企業に合った新しい農業の形を作っていくのが僕たちの仕事。現状では途中でやめられたお客様はいないんです。大半の方が台数を増やしたり、シェアファームに活用を広げたりとリピートしてくださっています」

「食べる場所で育てる」超地産地消が切り拓く未来
國村さんが見据えている未来は、日本国内にとどまりません。提携する大手ホテルチェーンなどとともに海外展開への準備も進めています。
「海外のほうが野菜に対する意識や需要が高い傾向にあり、市場も大きくなります。日本でできたこのモデルを、世界にアピールしていきたいです」
さらに、toB(法人向け)だけでなく、toC(一般家庭向け)の小型ユニットの開発も着々と進んでいるようです。
なぜ、これほどまでに「街の中で育てること」にこだわるのでしょうか。國村さんは次のように語ってくれました。
「今の流通は、遠くの農地から何日もかけて野菜を運んでいます。途中でいろんなマージンが乗って価格は高くなり、スーパーに並ぶ頃には収穫から1週間も経って鮮度が落ちている。おまけに長距離輸送で大量のCO2を出しています。果たして、これが本当に一番いいかたちなんでしょうか?」
「消費する場所=生産する場所」にする超地産地消へ。これこそが、あらゆる問題を一気に解決するカギになるのかもしれません。
「自分たちの食べる場所で育てれば、輸送コストも中間マージンもかからないから安くなる。採れたてだから鮮度も味も抜群にいい。室内で野菜を育てればCO2を吸収してくれるから、脱炭素にも貢献できる。何より、自分で育てたという愛着と安心感がある。街の中でも野菜を育てることが当たり前になれば、天候不順や農家不足といった食料問題の多くが解決できるはずなんです」

街の中にインストールされた小さな畑。そこから芽吹くのはきっと、美味しい野菜だけではありません。
人と食の距離がぐっと近づき、料理を作る人も食べる人も、働く人も訪れる人も、障がいのある人もない人も、生き生きと関わり合える。それこそが、OYASAIが描く都市の未来なのかもしれません。
文 / GOOD NATURE COMPANY 100 編集部