伝えたいことを伝えるために商品がある。消費者を仲間に変え、5万世帯に応援される企業のかたち|伊賀の里モクモク手づくりファーム

三重県伊賀市にある「伊賀の里モクモク手づくりファーム」。山あいに位置しながら、年間約30万人もの人が訪れる農業テーマパークです。

米やいちごを育てる第1次産業から始まり、ハムやソーセージを加工する第2次産業、そしてそれらの製品を提供、販売する宿泊施設やレストラン、イベントを運営する第3次産業。

これらを一貫して行う「6次産業」の成功例として語られることも多いこの場所ですが、その根底にあったのはビジネスとしての理論だけではありませんでした。

「伝えたいことを伝えるために、商品がある」

事業と信念。その両立が、どのように伊賀の里モクモク手づくりファームを形作っているのでしょうか。

今回は創業初期から会社と共に歩み、“かつてのモクモク”の姿も知る、株式会社伊賀の里モクモク手づくりファーム ファーム運営部広報チーフの浜辺さんに、お話を伺いました。

出典:観光三重(https://www.kankomie.or.jp/spot/1800)

自社養豚からの舵きり

伊賀の里モクモク手づくりファームの成り立ちは1980年代に遡ります。

「1988年にハム工房モクモクというのを創業しました。養豚農家が16軒、みんなで出資しあって、オーナーのいない会社の農事組合法人を作ったんです」

地元にブランド豚を作り、養豚農家を守るための取り組みでした。しかし現在、自社での養豚は行っていません。

「30何年経ったところで、全員がもう引退をしてしまったんです。私たちも自社で養豚を続ける方法を考えたんですが、様々な事情で土地が確保できなくて。結局、自社での飼育には区切りをつけることとなりました。現在は良質な豚を仕入れて、加工に力を入れる形へとシフトしています」

加工やサービス業への大きな舵きりが、現在の姿へと繋がっていきます。

食べ放題にしない理由

大切にしている活動の大きな柱に「食育」があります。

その姿勢が最もよく表れているのが「いちご摘み体験」。1時間のうち最初の20分間で、いちごについて学ぶプログラムが含まれています。

「全国各地、いちご摘みというのは食べ放題が基本になっているんですが、私たちは食べ放題には決してしないんです」

その理由は明確でした。

「食べ放題にしてしまうと、いっぱい食べることに夢中になってしまって、食べ終わったときに、『今日はもういっぱい食べたからいちごは当分いらないよね』って言いながら帰っていただくことになります。そういった会話になるか、それとも、食べ終わった後に『お母さん、ミツバチさんがいないといちごってできないんだよね』という会話をしていただくか」

出典:伊賀ポータル(https://www.igaportal.co.jp/special/24168)

農家は、農業の大切さや必要性を伝えることを怠ってはいけない。その思いが形になったのがこのいちご摘み体験です。

「どちらの方がいいんだろうと考えたら、やっぱりいちごの勉強をしてから食べていただく方が、いちご農業の発展に繋がるのではないかと考えています」

冷たいと思っていた牛乳は、温かかった

ファーム内の施設には、自動販売機が置かれていません。

「子供たちは、ジュースも、牛乳も、お水も、お茶も、全て飲みものという考え方だと思うんですね」

ある日、小学生の男の子にこう聞かれたといいます。『牛さんは体が茶色いから、コーヒー牛乳が出るの?』

「そのとき、学校で酪農を教える機会がないんだというふうに気づきました。そこで否定するわけではなく、実際に絞っていただいて、『やっぱり白かったね、白い牛乳が出たね』っていうふうに伝えたんです。自分で発見して学ぶ力をここでつけていっていただければいいなと」

乳搾りを体験した子どもたちは、みな驚くそうです。

「乳搾りを初めてする子供たちは、まず搾ろうと手を添えたときに温かいことを感じて、搾って出てきたものも温かいことに驚くんです。牛乳は冷たいものだと思っていたら、温かいのが出てきた」

それは命に触れる瞬間です。

「そこで、牛乳が牛のお母さんのお乳から出ているものなんだという認識になって、自販機で買うような普通の飲み物と牛乳は違うんだっていうのを自分で学び取ってくれるんですね。学校でできないことを知っていただける仕組みをいっぱい作っていこうじゃないかというのが、私たちの食育の考え方です」

口コミで広がった輪

今では多くの人が訪れる場所ですが、初めから順風満帆だったわけではありませんでした。山奥に作ったハム工房。創業当初はその存在を知る人も少なく、苦戦する日々が続いていました。

「そんなところに地元の幼稚園のお母さんグループが、『ウインナーの作り方を教えてよ』というふうにやってきてくださったんです」

開催を求める声に応える形で、ウインナー教室が始まります。SNSがまだ無かった時代、母親たちの口コミで、少しずつ輪は広がっていきました。さらには、製造していたハムのギフト化や、そのカタログ作りも、応援の声に応えて始まります。

「カタログができたら『ここに送って』って、奥様方が自ら住所と名前と電話番号書いてくださって。それがモクモクネイチャークラブの始まりになります」

伊賀の里モクモク手づくりファームのファンクラブである、モクモクネイチャークラブ。会員になると、イベントへの参加や割引など様々な特典が受けられます。

お客様が言ってくれたことを、一つずつ実現していく。その先に今の伊賀の里モクモク手づくりファームがあります。「モクモクって知ってる?」という口コミで広がった輪は、現在モクモクネイチャークラブの会員数を5万世帯にまで広げています。

ただの地域ブランドではなく、愛着ブランドへ

販売方法にもこだわりがあります。

「スーパーさんへの卸売もほとんどしていません。スーパーさんに卸したら、日にちが迫ってきたら半額シールとか貼られちゃうんですよね」

お客様の顔が見える場所で、適正な価格で売る。めざすのは、ただの地域ブランドではありません。

「私たちは地域ブランドの1個上を目指しています。例えば、同じいちごを買うのであれば、『作っている人を知っているから、その人のいちごを買って応援しよう』と思ってくださる方を、どんどん増やしていく。応援するためにお金を出そうと思って商品を選んでくださる状態を、愛着ブランドと呼んでいます」

だから伝える努力は惜しみません。モクモクネイチャークラブの会報誌にはスタッフの紹介がたくさん掲載されています。頑張っているスタッフの様子を知ってもらい、生産者と消費者の垣根を無くしていくための取り組みです。

伝える努力は、商品のパッケージやホームページにも散りばめられています。

「田舎の直売所には美味しいものが本当にたくさんありますが、ラップを巻いただけの商品が売れる時代ではありません。どんなに良いものでも、それが商品としてデザイン性を持っていないと売れないんです」

社内には5人のデザイナーがいます。パッケージだけでなく、園内にあるロゴから看板、チラシ、ホームページまで。すべて自社での手作りにこだわります。

「スーパーのチラシのような原色や、光沢のあるコーティング紙は使いません。優しい色を使い、紙はマットなものを選びます。お客様の目に触れるもの全て、土や農業を感じてもらえるものにしています」

事業と運動の両立

ここまでこだわる、その原動力はどこにあるのでしょうか。

「私たちはただ6次産業を発展させようということだけを考えているわけじゃなくて。事業と運動の両立が絶対条件だと思っています」

運動は、食育活動や、農業を知ってもらうための取り組みを指します。

「伝えるために、私達はいろんな商品を作ったりいろんなイベントを行ったりしているんです。私たちの考え方を知っていただいて、分かっていただいて、仲間が少しずつ増えていけばいいよねっていうところに重みを置いています。もちろん、活動を続けるために事業として成り立たせることは大切にしながら、運動としっかりと両立させていく。事業だけを伸ばすことが目的ではないんです」

伝えたいことを伝えるために、商品がある。画面越しの浜辺さんの言葉に、迷いはありませんでした。

ただモノを売るのではない。思想を手渡している。伊賀の山奥から始まった営みは今、5万世帯の応援という輪を広げています。

風土を愛し、人を愛する。そのシンプルな原則こそが、これからの企業が持つべき豊かさのヒントなのかもしれません。

文:GOOD NATURE COMPANY 100 編集部

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