山梨県北杜市・清里高原に広がる複合観光施設「萌木の村」。
その“清里らしさ”を半世紀以上にわたって育ててきた「萌木の村株式会社」社長・舩木上次さんをお迎えし、オンラインのトーク&ワークショップを開催しました。
当日は、東京、長野、京都、愛媛、島根など全国各地から、学生や社会人が参加。
「役割を見つけた人が人生の勝者だ」と語る舩木さんが、どのようにして自身の役割を見つけてきたのか。参加者からの質問や悩みにも耳を傾けながら、一人ひとりの「これからの役割」を一緒に探っていく時間となりました。
まずは自己紹介をお願いできますか?
舩木上次さん(以下、舩木):僕はたまたま清里で生まれ育ちました。でも、それがとても良かった。戦後、日本復興のために、清里で様々なプロジェクトを起こしたポール・ラッシュという人の存在が、今の僕に大きく影響していると思います。
それと実は私は高校受験で落ちたんですが、それも結果的に良かったと思っています。進学校に行っていたら、きっとコンプレックスの塊になっていたと思うんです。だからみなさんも、どこのポジションが良いのかっていうのは考えた方がいい。私の友人でも、高学歴だけど、あえて競争が激しくない場所を選び、活躍することで、自分のポジションを作った人がいます。その人は「地方には宝物がいっぱいあるんだから、それを見つけろよ」って言っていましたよ。

舩木さん自身は、どんなふうに人生の役割を見つけてこられたんでしょうか?
舩木:最近でこそ、未来に対して恩返しをしなければと思うようになりましたが、20代の頃は「楽しいこと」が大事だと思っていました。周りの人が楽しくて、幸せになって、そして最後にその楽しさが自分にも戻ってくればいいと思っています。
具体的にはどんなことから始められたんですか?
舩木:まずは大学を中退し、清里に戻ってから、若い人たちの溜まり場を作りたいと思い、「喫茶店ROCK」を作りました。お酒を飲んだり、音楽を聴いたりできる、田舎のディスコみたいな場所を作ることで、若い人が元気になればと思っていました。その後、ホテル事業を始めたりするんだけど、観光ブームで町が乱開発される様子を見て、感覚的に問題意識が芽生えました。
僕は、その町が醸す「風」や「空気」があると思っているんです。その質の高さが「風格」を表し、その逆が「下品」だと思っています。清里が乱開発で手に入ったお金をうまく使えずに、町に似合わない方向へ進んでいくことに危機感がありました。
僕は町が豊かになるためには、多種多様な人たちが様々な仕事をしていて、その土地を愛していることが大事だと思っています。だからそんな町を作りたいと思い、萌木の村を構想し始めました。
その後、芸術的な事業も始めようとオルゴール館を開業したりしながら、今に至ります。

様々な事業を進めてこられた中で、どのように自分の役割を見つけて来られたと感じてらっしゃいますか?
舩木:僕は基本的に「これをやってはいけない」という教育をあまり受けていません。人としてやってはいけないことはあるけど、それ以外は不可能を可能にできると思うんです。でも今多くの人はチャレンジしないし、すぐに諦めてしまう。もちろんすぐに実現できないことはあるけど、本当にみんなのためになることなら、人を巻き込みながら実現できると僕は思っています。
今日の参加者のように、30〜40代で自分の役割を探している人は、どのように役割を見つけていけばいいと思われますか?
舩木:基本的にそんな難しいことじゃないと思うんだよね。自分の好きなことが何かを見つければいいだけ。そしてそれを掘り下げていけばきっと見つかるよ。好きなことはどれほど努力をしても、お金にならなくても別に辛くないからね。
そして僕にとって「良い会社」とは、好きなことができる会社なんだよ。それで、たまたまお金がもらえたら最高なんじゃない?と思っています。
好きなことをやり続けていたら、もしかしたら仕事になったり、役割になったりするっていうことですかね?
舩木:そうだね。自分で道を切り開いていく方が、よっぽど人生は楽しいのにね。でも勇気がいるんだろうね。
勇気を持って楽しいと思えることを続けていくことで、自分の役割も見つかっていくんですね。
舩木:そうだね。そして好きなことをやっていると、不思議と周りがみんな幸せになるし、自然と応援してくれるんだよ。

参加者のみなさんは、今日参加して感じたことがあればぜひお話してください。
参加者:舩木さんのお話を聞いて、若さは年齢ではないなと感じました。その人の心の中から湧き出るものが若さだと感じたので、私ももう一度、自分の目指す方向に進んでいきたいなと感じました。
舩木:好きなことって、知識が増えるとさらに好きになっていくし、奥深く調べると、物の見方も変わってくるんですよ。そうすると過去の自分よりも成長する。そしていろんな人と出会うと、さらに知識が年輪のように広がって、さらに面白くなるんです。
新しいことにチャレンジし始めると、自然とそちらに意識が向いて、悩みが小さく見えてくるんじゃないかな。
他にもいかがですか?
参加者:舩木さんはこれまでに、「これが自分の役割なんだな」と思う瞬間がありましたか?
舩木:僕にとっては、石積みかな。76歳で体力は落ちていますが、石積みをやりたくて仕方がないから、その日は朝6時に目が覚めるんです。
もし僕が今「夢はなんだ?」と聞かれたら、「全てを捨ててゼロになりたい」って思うんだよね。だからもし皆さんの中で何もない状態の人がいるとしたら、それってある意味幸せなことなんだよ。だって好きなことをやろうと思っても、会社が大きくなれば社会的責任がある。本当は一つのことに打ち込めたらすごく楽しいだろうし、そういう人を僕は幸せな人なんだと思うな。
参加者:確かに自分も似たような経験があるので、とても共感しました。ありがとうございました。

この流れで質問タイムに移りたいと思います。舩木さんに聞いてみたいことがあればぜひどうぞ。
参加者:私は借りた土地を開墾して、畑にしようと活動しています。それが楽しくて楽しくて仕方ないんですが、土地も広いので、仲間がいた方がいいのかなと思う反面、今の世界が壊される不安もあります。仲間集めで気をつけていることはありますか?
舩木:仲間がいるってことは、時に我慢も必要なんだよね。僕は10代の頃からの友だちと石積みをしていたから気を遣わなくて済んだし、面白かった。でもそれって、年齢ではなくて、「価値観」だと思うんだよ。同じ方向を向いていれば、年齢が違う人とだって楽しいんだよね。
参加者:ありがとうございます。おっしゃる通り、後から価値観を合わせるのは大変だと思うので、気が合う仲間を少しずつ増やしていきたいと思います。

他にはいかがですか?
参加者:好きなことを続けていくときに、収入面も気になります。好きなことをやっているだけでは暮らしが成り立たない場合は、どう続けていったらいいんでしょうか?
舩木:例えば清里フィールドバレエっていうのは、毎回とても喜んでもらっていますが、この事業のために経営が行き詰まったこともありました。でもその時に僕は運にも、人にも恵まれて、救ってもらったことがあるんです。
僕が尊敬する人は「大人は袖振り合っただけで縁を結び、中人は袖振り合っても縁を結べず、小人は袖振り合って気付かない」と言っていました。だから、「運」と「人」が大事なんじゃないかな。
参加者:やっぱり人とのつながりを大切にしていくことが重要なんですね。ありがとうございました。

参加者:今日聞いたお話の中で、まずは楽しいことや人のためになることをやって、それが最後自分に返ってくるイメージだというお話がとても響きました。私は今自分が好きなことをやっていますが、それが誰のためになるのかとイメージが描けていません。舩木さんはどんなふうに描いていらっしゃるのか、お聞きしたいです。
舩木:ありがとうって言われた瞬間は、すごく充実感を感じるよね。もちろん、それを求めてるわけじゃないんだけれどね。
僕はたまに、本来はお店で販売しているものを、気分でプレゼントしちゃうことがあるんです。でも実はその相手が余命が限られた方だったりして、後日お礼の手紙が届いたりするの。毎日ではないんだけれども、長くやっていると、年に一回ぐらい、そういう瞬間に出会うんだよね。そんな時は、すごいやりがいを感じるんだよ。人生長いから、きっとあなたにもそんな時が来るよ。
参加者:ありがとうございます。その時を楽しみにしたいです。

イベントではこのほかにも、「風土の大切さを痛感しているので、私も風景をつなぐことをやりたいと思っている」など、自分の「好き」や「やりたいこと」を語る参加者の言葉が次々と続きました。
舩木さんとお話した参加者が、画面越しでも分かるほど、その表情がぱっと明るくなっていたのが印象的でした。
そして舩木さんの言葉の根っこにあるのは「風格ある地域をつくる」という揺るぎない思いであり、それは「好きなこと」を追い続けてきた結果として、今の役割が形づくられていることが見えてきます。
役割は、遠くにある大きな目標ではなく、いま心が動くものを掘っていくことで、自然と輪郭が現れてくる。
そんな気付きの詰まった時間となりました。
写真提供・引用:萌木の村株式会社
取材・文 / naoko yamakawa
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