食料自給率の低下や農家の高齢化などの食糧問題が叫ばれている中、アクアポニックスと呼ばれる新しい農業形態が注目されている。
水産養殖と水耕農業を一体化させたアクアポニックスは、エネルギー効率が良く環境負荷の少ない、次世代型のエコな農法だ。
「アクアポニックスで人と地球をHAPPYに」というビジョンを掲げる株式会社アクポニは、2021年から全国に40以上の農園を導入してきた。
新規就農者の増加や場所を選ばないビジネスモデルにより、都市部や未利用地でも効率的な生産が可能だ。
環境負荷を抑えながら高い収益性を実現できるこの事業は、持続可能な成長市場として急速に注目を集めている。
株式会社アクポニ 代表取締役
宮崎県生まれ。商社や外資系IT企業で新規事業を担当。2014年にアクアポニックスの普及を目指す「アクポニ」を創業。2017年より渡米し、研究開発に従事。2019年に帰国後、神奈川県藤沢市でテクノロジーやデータを活用した生産実証を開始。現在、①最適なアクアポニックス生産設備の構築と栽培管理、②資源循環の可視化、③バリユーチェーンの最適化、の3つを軸とした技術開発と導入支援へ尽力している。
アクアポニックスとは、魚の養殖と水耕栽培を組み合わせた循環型の農業である。
水産養殖を意味する「Aquaculture」と、水耕栽培を指す「Hydroponics」を組み合わせて作られた言葉で、養殖用の水槽と水耕栽培用のプラントベッドが一体化した施設で行われる。
まず水槽で養殖されている魚の排泄物をバクテリアが分解し、その栄養分豊富な水を植物が吸収して成長。植物によって浄化された水は再び魚の水槽に戻る。
このようにして、アクアポニックスの循環が生まれる。
作物は化学肥料や農薬を使わずに、魚は水替え不要で育てることができるため、エネルギー効率も良く、環境にも優しいサステナブルな農業方法だ。
アクアポニックスは場所を選ばず栽培できるので、中山間地域や都市部など、これまで環境や面積の問題で農業が難しかった場所での生産も可能になる。
特に、消費が多い都市部で農業ができるようになることで、流通の面でも大きな利便性を生むことができる。
アクアポニックスでは化学肥料を使用しないため、生産過程で排出される二酸化炭素を削減できる。これにより、脱炭素社会への貢献が期待されている。
養殖と農業という、従来は別々に行われていた産業が一体化しているため、同じ生産量を少ない電力と水で賄うことができ、エネルギーや資源の利用効率を高めることができる。
また、慣行農業と比べて生産性が高いという利点もある。
一般的な水耕栽培と比べると、アクアポニックスの営業利益率は2倍近くに達することもあるという。
株式会社アクポニ(神奈川県・横浜市)は、2014年に創業されたアクアポニックスの先駆企業だ
アクアポニックス農園の設計や施工、アクアポニックスについて学ぶスクールの運営、生産・流通事業など、幅広い取り組みを通じてアクアポニックスの普及に努めている。
また、独自に開発した「アクポニ栽培アプリ」では、生産現場で得られるデータを記録することができる。
人がおこなう作業や環境制御データ、魚や植物の状態をリアルタイムで収集・管理することで、生産者は生産過程の分析や適切な調整が可能になるのだ。
さらに、アプリでは環境負荷の軽減率をデータで確認することができる。
アクアポニックスのメリットである環境負荷の軽減をCO2削減量や窒素利用効率、節水量など、それぞれの項目でデータが可視化されるため、環境貢献度を理解し、生産効率の向上に役立てることができる。
このように詳細なデータを提供している企業は、世界的に見ても珍しい。
アクアポニックスが広まりつつある中、他社にはない高度な管理技術を誇るのが、アクポニ社なのだ。
アクアポニックスの利点として「場所を選ばない」という点が挙げられます。
これは非常に大きなメリットで、山間部や平らな土地が少ない中山間地でも活用できる可能性があります。すでに中山間地にアクアポニックスを導入している事例も増えてきています。
また、都市農業としても非常に有望です。人が住んでいる近くで作物を作ることは、食料供給の観点からも重要ですし、輸送コストを抑えることができるため、効率的でもあります。特に、都市部では「Farm to Table(ファーム・トゥ・テーブル)」のような地産地消の文化が根付いてきており、アクアポニックスはその流れに非常に適しています。
例えば、ある都市部では、農園を屋上に作るプロジェクトに協力しました。私たちが資材を調達し、農園を設計・施工したんです。このように、スペースが限られた場所でもアクアポニックスを導入する事例が増えてきています。
中山間地や都市部など、限られたスペースでも導入できることがアクアポニックスの強みです。
中山間地でアクアポニックスを導入した事例として、群馬県の斜面に農場を作った例があります。斜面でもアクアポニックスが可能です。ただし、ハウスを設置する部分は平らに整地します。具体的には、魚のハウスと野菜のハウスを段差をつけて設置。上段には野菜のハウスを、そしてその一段下に魚のハウスを設けました。水を循環させることで、斜面全体でアクアポニックスを完結させる仕組みです。
斜面や中山間地では、従来の農法だと効率が悪い場合が多いですが、アクアポニックスは場所に縛られません。魚と野菜を一体化した生産システムなので、狭い土地や不規則な地形でも効果的に運営できます。この事例でも、斜面に合わせた設計で成功しています。普通の農業が難しい場所でも、アクアポニックスなら可能性が広がります。
なおこのプロジェクトを進めたのは新規就農者の方でした。元々農業をしていたわけではなく、新しい形で農業に挑戦するためにアクアポニックスを選んだようです。このシステムなら、今まで農業が難しかった場所でも作物を生産が実現できるという点が、地域の持続可能性にとって大きな意義がありますから、斜面や場所が限られている地域でも、条件に合わせた設計を行い、支援を続けています。
これまで支援を断ったことはなく、どんな場所でも導入が可能か検討し、アクアポニックスの普及と持続可能な農業の発展を目指しています。
まず、アクアポニックスと養液栽培を比較してみましょう。例えば、3000平米の規模でレタスを栽培する場合、アクアポニックスの方が採算性が高いんです。私たちのシチュエーションでは、アクアポニックスの営業利益率は約15%ほど。
一方、養液栽培では8%前後です。この数字からもわかるように、アクアポニックスの方が利益を上げやすい仕組みになっています。採算性が高いというのが、大きなメリットですね。
また、アクアポニックスは場所を選ばず、安定的に一年中栽培できることも大きなポイントです。さらに、化学肥料を使わないため、脱炭素にもつながります。そして、エネルギー効率が非常に高いという点も挙げられます。これまで養殖と農業を別々の場所で行っていましたが、アクアポニックスではそれを同じ施設内で同時に行うため、電気代が大幅に抑えられます。
最近、異業種からアクアポニックスに挑戦する人が増えています。その理由の一つは、このシステムが生み出す価値の多様性にあります。
単純に「農業をやってみよう」と思うというよりも、すでに別の仕事をしている事業のオーナーが、自分の専門分野と循環型農業を組み合わせて新しい価値を生み出せるんじゃないか、と考えるケースが多いんです。
アクアポニックスの強みは、いろんな分野と掛け合わせができること。例えば、工場経営者が自社で出る廃熱や排ガスなど、今まで捨てていた資源をアクアポニックスの循環システムに取り入れる。さらにシルバー人材の活用までできる。
こうして無駄を減らしながら、新たな価値を生み出すという取り組みが実際に行われています。これは、自分の本業の強みを生かしつつ、持続可能な農業に貢献できるという、非常に面白いポイントです。
写真提供:株式会社アクポニ
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