今、失われつつある日本の原風景や豊かな自然環境。
この流れに歯止めをかけることは、国や一個人の活動だけでは難しいのが現状だ。
2021年に開催されたG7サミットでは、2030年までに国土の30%以上を自然環境エリアとして保全する目標「30by30(サーティ・バイ・サーティ)」が定められた。
そこで今、重視され始めたのが企業や地域による自然保護の取り組み。
国立公園や国定公園など、法律で自然が守られている従来の保護地域だけでなく、企業や地域がすでに所有している自然豊かな土地も保護しようという考えが広がっている。
つまり、これからは環境活動に積極的に取り組む企業を支援することが、健全な自然の再生につながる。
そんな時代に応援したい企業の活動を紹介するサステナビリティレポート。
今回は戸田建設株式会社(以下、戸田建設)の活動をレポートする。
戸田建設が自社の研究施設でその効果を実証し、推進しているのがZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)だ。
ZEBによって建築界からの環境貢献を目指すことに加え、カーボンマイナスという先進的な目標を掲げる戸田建設の取り組みを紹介する。
ZEBとはNet Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称であり、建物で消費するエネルギーの収支をゼロにすることを目指しながら、快適な室内環境も実現する建物のこと。
ZEBを実現するためにはまず、建物で使用されるエネルギーを削減する省エネ技術を施す。
外壁による遮熱・自然採光の仕組み等で冷暖房や照明に必要なエネルギーを減らす、人がいる場所や時間を見極めて空調や照明を調節するといった技術だ。
そのうえで、ビルで使用するエネルギーを生み出すため、太陽光を中心とした再生可能エネルギー設備も必要。
ZEBを実現するには、建築物の計画段階から、構造やデザイン、電気や機械といった様々な技術を総動員するため、戸田建設は社内の部署を超え、一丸となって取り組んでいる。
国は2050年のカーボンニュートラルの実現するため、2030年には、新築の建築物においてZEB基準を満たすことが義務化される見込み。
今後の建築に欠かせないものとなるZEBは、エネルギーの削減による環境に貢献だけを目的としているのではない。
省エネといえば、冷房の設定温度を控えるといった、利用者に負担を感じさせる印象があるが、ZEBが目指すのは省エネを実現しつつ、利用者の快適性も高めること。
戸田建設は、地球環境と利用者の環境を同時に改善するZEBの研究のため、自社の研究所を改修し、2021年にZEBを実証する施設として運用を開始。
2024年完成予定の新社屋は、超高層複合用途ビルとして日本で始めて、ZEB Ready(省エネルギー率50%以上)の認証を取得した。
※ZEBの定義はZEB、Nearly ZEB、ZEB Ready、ZEB Orientedの4段階に分かれている。
自社のビルで技術やノウハウを蓄積しながら、ZEBプランナーとして一般に向けた業務支援にも積極的に取り組み、2025年度には設計・コンサルティング業務のうち、50%以上をZEB関連事業にする目標を示している。
戸田建設がZEBとカーボンマイナスの実証オフィスとして、2021年に運用を開始したのが筑波技術研究所のグリーンオフィスだ。
引用:カーボンマイナスを目指して技術を結集した グリーンオフィス棟
四方の壁面を緑が覆うデザインが魅力的なこの建物は、戸田建築のZEB技術の集大成となっている。
壁面緑化のメリットは、夏には強い日差しを遮り、冬には落葉して光を取り入れ、自然の力を活用した省エネルギーを実現できることだ。
緑化に利用されているのは地域在来のつる植物であり、生物多様性にも配慮。
従来の壁面緑化は、屋外から見たときの美しさが重視されたものだったが、グリーンオフィスでは室内からの眺めにもこだわった。
緑のカーテン越しに柔らかな光が差し込み、利用者に安らぎを与える空間を演出している。
環境貢献性能と快適性、美しさを兼ね備えたデザインにより、2022年にはグッドデザイン賞を受賞した。
引用:グリーンオフィス棟(筑波技術研究所) | Build the Culture.
グリーンオフィスでは壁面緑化に加え、ひさしや真空断熱材の利用、屋上緑化、地中熱の活用などでも省エネを実現。
照明や空調はさまざまなセンサーを用いたAI制御により、無駄のない調節が可能で、省エネだけでなく、ビル利用者の快適性にも大きく寄与している。
照明は朝から夜にかけて、時間帯に合わせて色や明るさを変化させ、人間の生体リズムを整える設計。
床から吹き出す仕組みとなっている空調は、その場にいる人数や状況に合わせ、快適性も追求できる。
エネルギー効率を最適化するとともに、利用者の健康や生産性の向上も同時に叶える、あらゆる技術が投入されている。
残り50%分のエネルギーは太陽光発電で賄い、建物全体のエネルギー消費が実質ゼロになっているわけだ。
特筆すべきは、グリーンオフィスが1年単位での消費エネルギー収支ゼロにとどまらず、建物のライフサイクル全体を通して、カーボンマイナスの実現に取り組んでいること。
グリーンオフィスは、建物の改修工事で発生するCO2、いずれ解体工事をする際に発生するCO2量まで見据えて、排出量以上の削減効果を上げるよう長期的に計画されている。
この取り組みの評価は高く、第1回SDGs建築賞で国土交通大臣賞を受賞している。
引用:筑波技術研究所が「自然共生サイト」認定、「日本経済新聞社賞」を受賞
グリーンオフィスは、建物だけで完結しているのではなく、周囲の緑と一体化することでよりその性能を高めている。
オフィス棟の南側に広がるのは「つくば再生の里」と名付けられたビオトープ。
約500㎡の敷地は、水辺エリア、草地エアリア、樹林エリアで構成され、植栽された植物はすべて、地元つくば由来のものだ。
近年、緑地やビオトープの整備においては、外来種や園芸種ではなく、地域本来の在来種を用いるのが望ましいとされる。
つくば再生の里では260種以上の地域在来の植物を移植し、中央の池には周辺地域から収集した水生生物を放流して、生態系の維持に貢献。
2018年に造成されて以来、継続的な維持管理とモニタリングにより、希少な昆虫類の生育も確認されている。
引用:豊富なデータとノウハウで生物多様性の再生・保全をお手伝い
ビオトープの植物がCO2を吸収する効果により、グリーンオフィスを含む敷地全体でCO2の削減に貢献しているのも重要な点だ。
省エネ技術と再生可能エネルギーの利用に、緑地の活用も加えた三位一体の環境づくりによって、戸田建設はカーボンニュートラルを越えたカーボンマイナスの実現にむけて歩んでいる。
戸田建設がグリーンオフィスとビオトープで蓄えたデータやノウハウは今後様々な建築・緑地創生の場面で活用されるだろう。
社会全体に、経済効率や利便性に加え、環境貢献を実現できる建築が浸透すれば、カーボンマイナスが実現する未来は着実に近づいてくるはずだ。
戸田建設の環境活動はこちらをぜひご覧ください。
■参考・出典
text / yoko wakayama
edit / takuro komatsuzaki
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