生物多様性分析から持続可能な未来を探る。新時代のサイエンスパートナー|シンク・ネイチャー

今回の「GOOD NATURE COMPANY 100」は、沖縄の研究室から未来を変える、研究企業株式会社シンク・ネイチャー(以下、シンク・ネイチャー)。

琉球大学の一研究室が立ち上げた、世界の最先端を走るサイエンス集団だ。ここでは生物多様性をテーマに、世界に名だたる企業からの要望を受け、膨大な情報が処理されている。

彼らが抱くのは、失われつつある生物多様性を再生し、自然の恵みを未来に伝えたいという思いだ。

しかし、ラボでの情報分析がどのように生物多様性に影響するというのか。

そこにあるのは、科学的な情報分析によって社会の仕組みを変えようという、果てしない野望だった。

シンク・ネイチャー

シンク・ネイチャーとは

シンク・ネイチャー

シンク・ネイチャーは、琉球大学理学部に属する久保田研究室によって立ち上げられた、研究者スタートアップ企業だ。

大学教員3名、博士号取得者7名を始めとする生物多様性のスペシャリスト18名(2024年10月現在)が所属する。

彼らは10年以上にわたり、世界の生物多様性を明らかにすべく学術研究を行ってきた。日本に焦点を当てた研究成果は国の自然保護戦略にも活用されている。

しかし、それだけでは足りない。社会を変えるにはビジネスを動かす必要がある。学術を超えた真の社会実装を目指して、スタートアップを立ち上げたのだ。

生態系に影響するシンク・ネイチャーの3つの主要事業

シンク・ネイチャーの事業は企業に向けたものから、自治体向け、教育関連など多岐にわたる。とりわけ押さえておきたいのが、生態系へ大きく影響する3つの事業だ。

TMGAIN

事業の成果を定量化する【TN GAIN】

TN GAINは、企業や自治体などが実施する自然の保護保全・再生事業に対して、事業の成果(生物多様性ネットゲイン)を定量的に示すことのできるプログラムだ。

このプログラムは、積水ハウス「5本の樹」計画、イオン「ふるさとの森づくり」事業といった、さまざまな事業においてすでに用いられている。

緑地化計画・森林再生などの成果を、データテクノロジーをもとに定量化することで、事業の論拠、効果を、顧客やステークホルダーへ示すことが可能だ。

さらに事業の費用対効果を算定したり、生物多様性ネットゲインを最大化する事業計画を提案したりすることで、未来にわたって持続可能な事業活動を科学的にデザインする。

国際基準に照らし企業活動を評価する【TN LEAD】

国際基準に照らし企業活動を評価する【TN LEAD】

TN LEADは、企業活動が生物多様性に対してどのような影響を与えているかを評価し、環境情報開示につなげるプログラムだ。

サービスをより拡大するため、優先的に情報開示を行うべき事業を絞り込むために、300,000種以上の生物分布データと生態系に関するデータセットに基づいて事業拠点の評価を行うツールである、GBNAT (Global Biodiversity and Nature Assessment Tool ) をリリースした。このツールを用いると、ウェブ上で世界中の事業拠点の評価が自動で行える。

TN LEADで提供された分析は、トヨタ自動車、東急不動産、凸版印刷などの上場企業の情報開示レポートに利用されている。さらに、沖縄セルラー電話のTNFDレポートは、分析のみならず、情報開示戦略そのものの立案からの支援を行った。

自然関連の情報開示に関する国際的枠組みである、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)が提唱するLEAPアプローチに準拠し、生態学を専門とするデータサイエンティストが、信頼度の高い分析を行う。

事業所ごと、また事業ごとの自然に対する影響度を可視化するだけでなく、改善施策のシナリオに基づいてリスクや効果を事前に予測できる。持続可能な企業活動の方向性を見出し、生物多様性に対する影響を広報に活かすことも可能だ。

ジュゴンズアイ

生物多様性を目に見える地図に表す【DugongsAI・生物多様性地図】

生物多様性地図(J-BMP)は、世界中の生物分布を地図上に可視化したシステムだ。

DugongsAI(ジュゴンズアイ)は、このJ-BMPを基に開発した生物観察アプリである。沖縄の生物多様性情報を網羅しており、教育連携アプリとしても広く利用されている。

世界中から集められたビッグデータを地図上に落とし込み、どこに何種類の生き物がいるか、保全の必要性がどれだけあるかを可視化する。

データを有効利用することで、特に保全すべき地域や、保護すべき種のありようなどを突き詰めることが可能。沖縄だけでなく、日本全国への拡張を計画中だ。

生物多様性とその研究が経営やマーケティングに与える影響とは?

生物多様性。それは、地球の営みを支える、必要不可欠なバランス。生物多様性のありようを分析することで、経済活動を縮小するのではなく、合理的に拡大することができると、シンク・ネイチャー五十里氏は言う。

シンク・ネイチャー サービス開発マネージャー 五十里 翔吾
五十里 翔吾
取締役・サービス事業部 五十里 翔吾

大阪大学基礎工学研究科博士前期課程終了、修士(工学)。2022年より琉球大学理工学研究科博士課程所属(久保田研究室)。ロボット工学、ヒューマンコンピュータインタラクションを専門としていたが、生物多様性に関心を持ち博士過程より分野変更。Virtualion株式会社CEO。

https://think-nature.jp/aboutus

「最先端の研究室」が、なぜ「研究者スタートアップ」の道を選んだのか

「最先端の研究を行う大学の研究室がスタートアップ企業を立ち上げるケースは、決して一般的ではありません。

それでも琉球大学久保田研究室がシンク・ネイチャーの立ち上げに踏み切ったのは、最先端の研究をするだけでは社会の現状を変えられない、と判断したからです。

研究室に集まる最先端の研究手法やデータを社会実装するには、資本主義という社会の枠組みに踏み込む必要があります。科学的知見でビジネスのよりよい意思決定に貢献することで収益を上げる。その営みを通じて自然の保全を実現する。この「三方よし」を実現するために、シンク・ネイチャーは立ち上げられています。」

最先端のデータ分析とは何か

「最先端といっても、データ分析で行っていることは非常にシンプルです。

シンク・ネイチャーの分析が最先端であるといわれるゆえんは、長年の研究に裏打ちされた、データ分析の前提となる最先端のアイディア、コンセプトにあります。

さらにシンク・ネイチャーでは、用いるデータの量と質に妥協をしません。分析に用いるデータは、文字通り膨大です。生物種の分布データだけでも、30万種を超えるデータを保有しています。この他にはないデータ量そのものが最先端であり、これら2つの最先端によって正しい情報にたどり着くことができます。」

どのような研究者集団なのか

「シンク・ネイチャーのメンバーは、みんなが良い意味で変わり者。つまり全員が卓越した研究実績を持つ研究者集団です。

例えば、家族旅行を研究対象の地域に選んでしまうほどフィールドワークを大切にする人や、深い探究心で課題解決に取り組む人もいます。

知的好奇心と行動力にあふれるチームです。 明日全員に共通しているのは、CEOの久保田教授が打ち出す先進性やビジョンの面白さに、共感をおぼえ集まってきたメンバーだということ。世界中の研究者とのネットワークを持っていたり、青年海外協力隊としての活動実績を有していたりと、日本にとどまらない活動のスケールが、メンバーの特徴かもしれません。」

「日本最大の生物多様性のビックデータ」とは何か

「私たちが扱う典型的な生物多様性のデータは、『どこでどんな生き物がいつ記録されたか』のデータです。シンク・ネイチャーのデータ数は、実に数千万を超える規模です。10年以上にわたる基礎研究を通じて蓄積されたものです。その中には、紙媒体の生物誌や、同好会の雑誌からも電子化されたデータも数多く含まれます。

こうしたデータがあることで初めて、たとえば『ある生物が特定の場所にいなくなり、多様性が失われた場合に、洪水などの自然災害リスクがどの程度高まるか』といった分析を正確に行えるようになります。」

それぞれの事業は、なぜ始めたのか

「シンク・ネイチャーの事業は、いずれも最初から、完成された状態で立ち上げられたわけではありません。さまざまな企業の声に向き合い、社会で必要とされることを追求した結果、現在のような形へと事業が成長してきました。

企業は社会貢献などを目的に、予算をかけて自然保護活動を行いますが、その事業が、地域の生物多様性にどの程度貢献したかを定量的に測定する手段をもちません。しかし、企業としては費用対効果を知りたいし、正確な数値情報があった方が広報としても訴求力があります。

そこでシンク・ネイチャーが分析を行い、事業の成果を可視化できるようにしました。さらにシンク・ネイチャーの未来予測は経営方針の策定にも用いられるようになっています。現在の事業は、保有するデータや知見を、求められるものに少しずつフィットさせていった結果です。」

シンク・ネイチャーの強みと課題

シンク・ネイチャー

「環境経営をリードするヨーロッパを主軸に、海外ではさまざまな規制によって、トップダウンで生物多様性を保護する取り組みが行われています。

これに対して、日本の企業は、それぞれが持つ責任感や合理性によって自然保護・再生活動を行ってきたという、いわばボトムアップの構造があります。しかし、規制主導の方法に比べ、施策の広がりの面では後れを取ることになります。

しかし、だからこそシンク・ネイチャーの強みが生きるのではないかと思います。規制への対処はいわばしかたなく取り組む宿題のようなもので、そこから社会を変えるようなイノベーションが起きるものでしょうか。

一方で、各々の企業が目的意識をもって行う活動は、本質的なイノベーションにつながる可能性があります。例えば積水ハウス『5本の樹』のような都市緑化の先進的事例は、規制ベースでは決して生まれなかったでしょう。こういったボトムアップな取り組みを科学的に評価すること、さらなるアクションにつなげるためのコミュニケーションを行うことが重要だと思います。」

シンク・ネイチャーの今後の展望

「自然資源を利用する大きな流れをつくるのは、グローバルなスケールをもつ大企業です。だからこそ、科学的な情報に裏打ちされたコミュニケーションを通して、国際的な影響力をもつ日本企業との間に深いつながりを作るようにしています。

そのなかで、必要に応じてローカルスケールのアクションにも対応していく。

たしかにESGというコンセプトは欧米由来のものですが、日本は「三方よし」という言葉にもあるように古くから事業を取り巻く様々な環境に配慮したビジネスが行われてきたと言えます。この哲学を武器に、規制ベースのネイチャー対応が構造化されつつある世界に立ち向かうという、いわば『坂の上の雲』のような世界観を持っています。」

企業経営において、生物多様性に好影響を与えることがどうして必要か

「無計画な経済活動は生物多様性を損ない、資源の調達を不安定化させるでしょう。すると社会も不安定化し、紛争など争いを引き起こすことにもつながります。

したがって、企業が長きにわたり発展を遂げようと思うならば、人間社会の基盤である生物多様性という重要な概念を、企業経営に取り入れることが不可欠です

大きなスケールで、数十年後の収益安定性を正しく予測しながら企業経営を行うことは社会にとって合理的であり、持続可能な社会を実現する鍵でもあるでしょう。

自然は、人間とは全く違ったロジックで動いている存在なので、自然資本を持続可能にしようというとき、人間側の都合で作る規制では限界があります。

だから、自然と調和した事業こそ、将来にわたって収益を上げ続けることができるものだ、という認識が広まることが重要だと思っています。

そのためには企業の収支にかかわる具体的な数値をもとにして、企業を動かすコミュニケーションを行う必要があります。これはサイエンスコミュニケーションの新たな在り方と言えるかもしれません。」

GOOD NATURE COMPANY 100 とは

「GOOD NATURE COMPANY 100」プロジェクトは、持続可能な社会の実現に向けた企業の活動内容を、おもしろく、親しみやすく、その物語をまとめたデータベースです。

風景を守る会社、生物多様性に寄与する会社……

私たちが暮らす社会には、いいことを、地道に続ける会社があります。

それを知ればきっとあなたも、こんなに素敵な会社があるんだ!と驚き、そして、好きになってしまう。

私たちは、持続可能な社会の実現に向けた企業のサスティナビリティレポートを作成し、データベース化していきます。

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