今、失われつつある日本の原風景や豊かな自然環境。
この流れに歯止めをかけることは、国や一個人の活動だけでは難しいのが現状だ。
2021年に開催されたG7サミットでは、2030年までに国土の30%以上を自然環境エリアとして保全する目標「30by30(サーティ・バイ・サーティ)」が定められた。
そこで今、重視され始めたのが企業や地域による自然保護の取り組み。
国立公園や国定公園など、法律で自然が守られている従来の保護地域だけでなく、企業や地域がすでに所有している自然豊かな土地も保護しようという考えが広がっている。
つまり、これからは環境活動に積極的に取り組む企業を支援することが、健全な自然の再生につながる。
そんな時代に応援したい企業の活動を紹介するサステナビリティレポート。
今回はブラザー工業株式会社(以下、ブラザー)の活動をレポートする。
Brother Earthというスローガンのもとに、地球全体の環境に貢献しながら、地域の人々との交流も育むブラザー。
日本と世界各地で、どんな取り組みをしているのだろうか。
ブラザーは、2008年に創業100周年を迎えるにあたり、新たな社会貢献活動の取り組みとして森林再生プロジェクト「ブラザーの森 郡上」の活動を開始。
岐阜県が制定した「岐阜県森林づくり基本条例」を受けて15年間の協定を結び、郡上市内の約28haの土地で、森林を再生する取り組みを始めた。
引用:従業員参加で、地域社会とともに多様な生態系を育てていく
荒れ地となっていた白鳥地区のスキー場跡地では、毎年春と秋の2回、植樹ツアーを開催。
地元の森林組合やボランティアとともにブラザーの社員と家族が参加し、クワを手に土を掘り返し、一本ずつ苗木を植えていく。
2024年現在も続くこの活動で植えられた苗木は、6660本を越えた。
参加者たちは、木を植えるだけでなく、弱った樹木の手入れも行う。
毎年参加している人たちには、自分が植えた木の成長を知る喜びや、木の種類による育ち方の違いに気づくといった体験もある。
森の成長や、森との持続的な関わりの必要性を、実感し、学べる場となっている。
ブラザーの森づくりは、初めから順調に進んだわけではない。
当初は育たずに枯れてしまう苗木が多く見られたため、2014年からは名古屋大学の高野教授らとの共同研究に着手した。
調査開始時、植樹した苗木がしっかりと根付き、生育している割合は40%程度しかなかった。
その後2年にわたる研究によって、成長がいい樹種と枯死しやすい樹種をみきわめ、植樹に適さない場所はあえて草地にするといった見直しを進めていく。
その結果、森林の生態系は徐々に回復し、日本の固有種であるギフチョウを始めとした希少な動植物が観測されるほどになった。
引用:従業員参加で、地域社会とともに多様な生態系を育てていく
ブラザーの森郡上は2023年に15周年を迎え、岐阜県との協定をさらに10年延長。
これを機に、森林保全活動を社員に限らず一般にも広げていく方針だ。
2024年春の第28回となる植樹ツアーには、地元住民も参加し、植樹や調査のコースに加え、ブラザーの森郡上の草花を観察するコースも実施。
植物に実際に触れ、山菜のにおいや味を確かめるなど、森の魅力をより身近に感じられる経験を提供した。
引用:第28回「ブラザーの森 郡上」植樹ツアーを開催しました
多くの人が関わり、試行錯誤しながら豊かな生態系を育んできたブラザーの森郡上。
今後はこの森を舞台に、人々の交流の輪も育まれていく。
世界の40以上の国や地域に拠点を持つブラザー。
各地で、それぞれの地域に根ざした環境活動を展開している。
例えば2009年からタイで取り組んでいるのは、マングローブ林の再生。
マングローブは熱帯・亜熱帯地方の汽水域に生育する植物の総称。
その根は水中にはりめぐらされ、何千種類もの魚たちが生育する場を生み出し、高潮の被害を防ぐ防波堤としても機能する。
マングローブを含む海洋生態系は、陸上生態系よりも効率よく長期的に炭素を吸収・固定するため、CO2削減による気候変動対策にも重要な存在だ。
しかしマングローブ林はいま、世界各地で急速に減少しつつある。
タイでは塩田開発やエビの養殖の影響により、1961年からの35年間で面積は半分以下になった。
ブラザーはタイのマングローブ林再生のため、従業員やその家族と、一般の参加者も募って苗木の植樹活動などを展開。
マングローブ林が育む生態系の回復に努めながら、タイの人々の環境意識の啓発にも貢献している。
その他、スロバキアの自然災害で失われた広大な森林を再生するプロジェクト、中国内モンゴルで砂漠化を防止する植樹活動など、さまざまな取り組みが行われている。
これらの活動はトップダウンではなく、現地の従業員による発案や自発的な行動であるという。
Brother Earthの精神は世界中の従業員の共通認識となっており、各地で必要とされる環境活動が、長期的に続けられている。
ブラザーの環境活動は、その実践とともに情報発信の質の高さでも注目に値する。
自社サイト「ブラザー SDGs STORY」では、親しみやすさと分かりやすさを追求した記事が豊富に並ぶ。
発信の場はインターネットだけではない。
ブラザーがスポンサーを務めるFM AICHIの番組「Music Earth “地球の未来のためにできること”」では、「みんなのSDGS」をテーマに持続可能な社会を目指す様々な取り組みを紹介している。
リサイクル素材製品の話題や、動物園のホッキョクグマから地球温暖化を考えるなど、多くの人が興味を抱きやすい内容だ。
2018年からは環境・生物多様性保全をテーマにこども向けイベント「ブラザーアースキッズアカデミー」を毎年開催。
「絶滅危惧動物図鑑」や「環境宣言ポスター」作りを通じて、楽しみながら生態系や環境保全について学べる工夫が凝らされている。
引用:楽しく工作をしながら、生態系と環境の保全を考える | Empower your life.
特筆すべきは、イベントの開催場所が学童保育所を中心とされていること。
環境の改善には、一部の関心の高い層だけが取り組むのではなく、一人ひとりの気づきや行動が必要。
学童保育所で幅広い子どもたちにアプローチし、子どもの頃から環境への関心を高め、家庭でも共有されれば、社会全体の意識向上にもつながるはずだ。
環境保全の実践と効果的な情報発信、次世代育成も踏まえた総合的な取り組みで、100年後の地球のために、ブラザーは全力を尽くしている。
ブラザーの環境活動はこちらをぜひご覧ください。
■参考・出典
text / yoko wakayama
edit / takuro komatsuzaki
GOOD NATURE COMPANY 100 とは
「GOOD NATURE COMPANY 100」プロジェクトは、持続可能な社会の実現に向けた企業の活動内容を、おもしろく、親しみやすく、その物語をまとめたデータベースです。
風景を守る会社、生物多様性に寄与する会社……
私たちが暮らす社会には、いいことを、地道に続ける会社があります。
それを知ればきっとあなたも、こんなに素敵な会社があるんだ!と驚き、そして、好きになってしまう。
私たちは、持続可能な社会の実現に向けた企業のサスティナビリティレポートを作成し、データベース化していきます。
© Copyright EDUCERE 2024