国内研修

私たちは、島根県立大学の地域政策学部に所属する学生小村優季/櫛本和/富山萊那です。地域の魅力を自分たちの目で見て、感じ、発信する力を身につけることを目指して学んでいます。

2025年8月、私たちは「ディスカバーリンク瀬戸内」の地域プロジェクトと、3年に一度開催される瀬戸内国際芸術祭の現地フィールドワークに参加しました。訪れたのは、岡山県、福山市・尾道市、香川県の男木島・女木島・小豆島。5日にわたる研修の中で、歴史的な街並み、アート、そして地元の人々の仕事や暮らしを体感しました。

この研修の目的は、「地域の魅力がどのように生まれ、受け継がれていくのか」を学ぶこと。そして、感じたことを記事として発信し、伝える力を身につけることです。

研修を通して私たちが考えたテーマは、美しさと仕事。それは、人と場所、暮らしと時間の関係の中に生まれるもの。

見た目の美しさだけでなく、誰かの手仕事や工夫、地域の人々の思いが重なり合ってできる風景にこそ、本当の美しさがあると感じました。

この記事では、私たちが瀬戸内で出会った「美しい仕事」を紹介します。

・鞆の浦:古い町並みを生かした宿づくり

・尾道デニム:人の暮らしを刻む一本のジーンズ

・LOG:地域に開かれたホテルの在り方

・ONOMICHI U2:港町に生まれた「町の中の小さなまち」

美しさとは何か、仕事とはどう地域を照らすのか。

私たちが現地で感じた人と場所の関係性の美しさを、お伝えします。

鞆の浦|直すことで残すという美しさ

旅の最初に訪れたのは、広島県の港町・鞆の浦。

ここでは、古い家屋を改修した宿泊施設を見学しました。新しく建て替えるのではなく、景観条例に基づいて昔ながらの建物を改修しているのがポイントです。


宿の壁や柱には、かつての暮らしの跡が残り、船の部品を使った装飾が港町らしさを感じさせます。窓から見える静かな海と、ゆっくりと流れる時間の中で、「直す」という行為そのものが地域の景観を守る仕事であり、それが美しさをつくる営みなのだと感じました。

尾道|暮らしを刻む一本のデニム

日本のデニムの聖地と言えば、岡山が有名ですが、広島尾道市にも全国から注目を集める特別なデニムがあります。それが「ONOMICHI DENIM PROJECT」です。

このプロジェクトでは、鉄工所の職人さん、漁師さん、柑橘農家さん、大工さん、尾道で暮らし、働く人たちが一年間デニムを穿きこみます。

色落ちや擦れは、彼らが働いた時間の証。一着のデニムには、それぞれの仕事の手ざわりが刻まれていきます。

一年後、そのデニムは誰がどんな仕事をしていたのかという物語とともに店頭に並びます。買い手は、その物語を通じて、働く人の姿を思い浮かべる。

デニムを媒介に、働く人と暮らす人、つくる人とつかう人がゆるやかにつながっていくのです。

尾道デニムを見ていると、美しい風景とは、ただ景色が整っていることではなく、そこに生きる人の仕事がみえることだと気づきました。

働く姿がそのまま風景になり、その風景がまた人の誇りを育てていく。尾道は、まさに働くことが美しい風景をつくる町でした。

派生プロジェクト「リクロ―」

尾道のデニムの精神は近隣地域にも広がっています。2020年、広島県福山市で「リクロ―」という新しいものづくりプロジェクトが始まりました。これは役目を終えたワークウェアを回収し、再び形を変えて生まれ変わらせる循環型の取り組みです。

プロジェクト名「リクロ―」は“WOKER”を逆から読んだもの。作業着としての役目を終えた布を、バッグや財布、家具といった新しい製品へと昇華させます。単なるリサイクルではなく、素材の背景や働く人のストーリーを大切にする姿勢は、尾道デニムと共通しています。どちらも「モノを通じて人や地域をつなげる」という価値観を持ち、循環型社会へのヒントを与えてくれます。

LOG|まちをひらくおもてなしの仕事

広島県尾道市の東土堂町にあるホテル「LOG」は、尾道の歴史と文化を大切にしながら再生されたユニークな宿泊施設です。

尾道市には、広島県の中心部に被害をもたらした原子爆弾の投下や、福山を襲った大空襲などの戦争被害や、歴史的災害がなかったため、鎌倉時代をはじめとした歴史的建造物が並びます。

その中でも、LOGは、築95年のアパートをリノベーションしたもので、もともとは24部屋ありました。このアパートでは、1931年に建てられた尾道の山側初の洋館の一つで、リノベーションにあたっては、以前ここに住んでいた地元の人々に喜んでもらえることを第一に考えています。

例えば、近隣に住むお年寄りの方々に配慮し、チェックイン時間を15時から20時までに限定するなど、地域住民との共生を重視しています。

LOGの設計は、インドの世界的建築家が手掛け、この建築家は、パリのルイ・ヴィトンのランウェイやカルティエの美術館の展示も手掛けています。

LOGのスタッフは、“自分たちばかりが、人気があったらそれでいいわけない”と、お客さんに地元のお茶屋さんやラーメン屋さんなどを紹介し、地元の方とともに経済を潤すことができる仕組みを作っていくことを大事にしています。また、カフェではフードロス削減のため、廃棄されるイチジクなどを商品化する取り組みも行っており、町に開かれた軽罪循環の拠点になっていました。場所を生かすことと人をつなぐことを同時に行う。そこには、まちの未来をデザインする仕事の姿がありました。

ONOMICHI U2|日常をつなぐ仕事

尾道の人気スポットである「ONOMICHI U2」は、2014年にオープンして今年で11年目を迎えます。もともとあった古い海運倉庫がリノベーションされてできた施設で、港町らしい雰囲気を残しながら昔と今が調和した空間を楽しめ場所です。

コンセプトは「まちの中のちいさなまち」。館内には、カフェ、ベーカリー、レストラン、バー、ライフスタイルショップ、サイクルショップなどたくさんのショップが並び、ちいさな町を歩いているような気分になれました。

サイクリストにとても優しい設備となっており、日本で初めて自転車を客室に持ち込めるホテルを実現しました。

ここで働く人たちは、観光客と地元の人、どちらか一方ではなく、その間を見つめる仕事をしています。パンを買いに来る常連さんも、旅の途中のサイクリストも、同じ風景の中にいる。その重なりを整えるのが、ここで働く人たちの役割です。

日常と旅をつなぐ小さな仕事の積み重ねが、地域の時間を育て、美しい風景を保っているのだと感じました。

おわりに|働くことが、美しい風景をつくる

5日間の旅を終えて、私たちは美しさとは何かを改めて考えました。それは、見た目の綺麗さではなく、人が何かを大切にしながら働く姿の中に生まれるものだと気づきました。

直す仕事、育てる仕事、つなぐ仕事、ひらく仕事。どの現場にも、誰かの手が風景を支えているという共通点がありました。私たちはこれから、地域の未来を考える立場としてこの研修で見た働く人の美しさを忘れずにいたいと思います。働くことが風景をつくり、その風景がまた、次の誰かの仕事を生み出す。そうやって続いていく営みこそ、これからの美しい風景をつくる仕事だと感じました。

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