顧客や株主も仲間。多事業展開を支える「協働モデル」とは? 株式会社マイファーム 西辻一真社長インタビュー【後編】

農業界の「プラットフォーム的な存在」として、多くの事業を手がけ、注目を集める株式会社マイファーム。(以下、マイファーム)

前編では、体験農園や農業学校、不動産会社や再生可能エネルギー企業との連携など、マイファームが手がける多彩な事業を紹介した。その背景にあるのは、「かつては暮らしの一部だった農を、もう一度人々のそばに取り戻したい」という思いだ。

暮らしのなかで自然と農に触れられる入口を増やし、人と食、人と自然との距離を縮めていく。そうした取り組みの積み重ねが、マイファームの歩みを後押ししてきた。

では、その挑戦を裏側で支えている人や組織の仕組みは、どのようなものだろうか。

後編では視点を「人」に移し、顧客や株主、社員を仲間として迎え入れ、協働を生み出していくマイファームならではの風土について、西辻一真社長にうかがった。

顧客・株主が仲間に変わる「協働モデル」

マイファームが運営する事業は多岐にわたるが、西辻社長はその背景について、顧客や株主が仲間に変わる「協働モデル」がカギであると語る。

西辻一真社長(以下、西辻社長):私たちが運営する社会人向け週末農業学校「アグリイノベーション大学校」の卒業生は、すでに2400人を超えています。そのため、例えばどこかの自治体でイベントをやる時に、そのネットワークに声をかけると「私行けるよ!」「手伝いたい!」と反応してくれるんです。私たちの強みは、スクールや事業に顧客として関わってくださった方々が、次はパートナーとして支えてくれること。卒業して終わりではなく、そこから仲間としての関係が始まる。その協働ネットワークこそが、私たちの多様な事業を支える原動力になっています。

2024年に行われた、アグリイノベーション大学校の大同窓会「BIG PARTY」の様子

 

西辻:パートナーという意味では、株主も同じです。私たちは企業と提携し、資本協力をしてもらっているケースが多いので、株主もただの出資者ではなく、ともに社会をつくる仲間として「一緒にやろう」と言ってくださる会社さんが多いのです。
例えば、漢方で有名な株式会社ツムラさんは、株主であると同時に、生薬の生産技術開発から国内の産地拡大までを、私たちがお手伝いさせてもらっています。

顧客から社員、株主、地域の人々まで、関わる人すべてが「仲間」としてつながり、マイファームの挑戦を支えているのだ。

株式会社ツムラと連携する国産栽培プロジェクトの様子

全国に散らばる社員の心の拠り所

 

仲間の輪は顧客や株主だけにとどまらない。全国で働いている社員もまた、マイファームを支える重要な仲間だ。

西辻:現在私たちの会社は京都本社の他に、宮城、東京、福岡、沖縄に拠点がありますが、実は、社員の居住地は北海道から沖縄までさまざまなんです。社員は毎日出社する必要はなく、リモートワークも推奨しています。拠点が異なる社員が、各地域で活躍してくれているおかげで、私たちは全国各地で多様なプロジェクトが進められているのです。

社員が半期に1度、成果や今後の目標についてオンラインでプレゼンを行う様子

 

一方で、拠点が違う社員たちとのチームづくりについては、課題もあったのだという。

西辻:私が一度社長を退任し、再び戻ってきた第2創業期に、どうすれば会社や社員のことを大切にできるのかを考え、「マイファーム定義書(以下、定義書)」という資料をつくりました。

定義書は、毎年アルバイトも含めた全社員に「理想とする100年後の社会は?」というアンケートを取り、その中からいくつかピックアップして、クレド(全社員で共有する行動指針)としてまとめています。

100年後なんて誰もわからないと思うんですが、あえてこの質問をすることで、「100年後の未来のために、自分たちはどういう行動指針を持つのか?」と改めて考えるきっかけにもなればと思っています。

マイファームの社内組織図(※組織名称は2025年8月時点のもの)。経営陣が「下」、現場スタッフが「上」に配置され、役員が下から水や養分を吸い上げ、それぞれの事業やスタッフが花開く、というイメージで描かれている。

 

西辻:私たちの仕事は、社会課題の解決とビジネスの両立を求められる分、時にはそのバランスに悩むこともあります。でも迷った時には定義書を見返し、「目指す場所はそこだったよね」と社員の心の拠り所になればいいなと思っています。

西辻社長の思いを引き継ぎ、現在はコーポレート部門の社員が定義書を取りまとめている。企業のトップではなく、現場の社員自身が毎年更新し続けるそのユニークな仕組みは、マイファームの文化として根づいているのだ。

早く成果を上げることよりも大切にしたい価値観

取材中、西辻社長は「早く行きたいなら一人で行きなさい。遠くへ行きたいならみんなで行きなさい」というアフリカのことわざを、繰り返し口にされていた。その言葉には、成果を急ぐことよりも、顧客や株主、社員、地域の人々と手を取り合いながら、ともに理想の社会を実現したいという思いが込められているのだと感じた。

遠くへ行くために、仲間とどう関係を育んでいくのか。働き方も価値観も多様化する今、マイファームの挑戦は、農業界にとどまらず、これからの社会や事業のあり方に大きなヒントを与えてくれるのかもしれない。

写真提供・引用:株式会社マイファーム
文 :山川奈緒子

GOOD NATURE COMPANY 100 とは

「GOOD NATURE COMPANY 100」プロジェクトは、持続可能な社会の実現に向けた企業の活動内容を、おもしろく、親しみやすく、その物語をまとめたデータベースです。

風景を守る会社、生物多様性に寄与する会社……

私たちが暮らす社会には、いいことを、地道に続ける会社があります。

それを知ればきっとあなたも、こんなに素敵な会社があるんだ!と驚き、そして、好きになってしまう。

私たちは、持続可能な社会の実現に向けた企業のサスティナビリティレポートを作成し、データベース化していきます。

- REGISTER -

© Copyright EDUCERE 2024

上部へスクロール