人とまちと美

 

3班  福永 球馬    
   岡田 愛莉 
   大屋 孝三 

 私たちは島根県立大学の地域政策学部に所属している学生です。私たちは地域づくりに関心を持ち、今回の国内研修に参加することになりました。この研修での学びを通して自分たちなりのかかわり方を見つけたいと思います。研修で得た気づきや学びをこのブログでお伝えします。

 尾道市は、瀬戸内のほぼ中央。広島県の東南部に位置し、人口およそ13万人が暮らすどこか懐かしいまち。瀬戸内海の多島美や緑豊かな丘陵地、歴史的な景観を持つ地域。かつては造船業が活気だった「港まち」「商人のまち」ただの観光地じゃなくて、人の暮らしが息づく“まち”なんですよね。訪れるたびに、違う表情を見せてくれる不思議な場所です。

 今回はじめに訪れたのは、「HITOTOITO」。広島県福山市北部は、江戸時代から続く綿花栽培や備後餅の歴史を背景に、現在も繊維関連の企業や工場が集まる地域。「HITOTOITO」は、そんな地場産業の技術と魅力を次世代に伝える拠点。ここでは、一般的なデニムパンツを作る上での専門的な縫製技術等を学ぶカリキュラムが用意されている。

日本の大半のデニム生地が生産されているこの福山市。高い技術力と製品のクオリティの高さは、国内だけでなく、世界中から信頼されている。このような技術と信頼がある一方、継承者不足に悩まされていた。若い担い手不足に一度は、中国やベトナムなどから実習生・研修生に技術を継承するが、彼らは3~5年で帰国してしまうため継承者不足には変わりなかった。

そこで立ち上がったのがこの「HITOTOITO」。
一般向けにデニムスクールを開講。専門的な知識や技術を2週間かけて学ぶ。卒業制作として、自分のサイズに合ったデニムを自らの手で縫い上げる。開講当初は苦戦もあったが、海外から学びに来る人も増え、2025年夏時点で、26期の卒業生を送り出している。


ここを訪れ、この福山市の産業がどのように守られ、進化してきたのか、その背景にある人々の想いや努力があったことを感じた。「なんとかしなきゃ」という職人たちの思いが、デニムスクールという形に変わり、世界中から技術を学びに来る場所となった。この一言が福山の産業に大きく影響したと考えることができるであろう。

 広島県福山市にある港町、鞆の浦。瀬戸内海に面した歴史あるこの地は、数多くの観光客で賑わう。このまちは、映画『崖の上のポニョ』のモデルにもなったとされる地であり、歩くだけでゆったりと時間を過ごすことができる。

白壁の町家や石畳の道が続き、時がゆっくりと流れているような感覚。江戸時代の地図でもまちを歩けるというほど、昔ながらの景観を大切にしている。

この鞆の浦では、毎月のようにお祭りがあるほどまちは活気にあふれている。しかし、このまちでは、住民が第一。観光地として、空き家を更地にし、駐車場にすればいいところを、鞆の浦の良さを保つため、空き家を改装する。路地とか古い町が、家が、残っているからなんか趣があってエモいねとは言うけど、もしそれをみんな新しい住むために便利な家にしたらわざわざ鞆の浦に行く意味がなくなる。と、大切に思う人もいる。

 

歴史と日常が無理なく同居する風景は、旅の速度をやさしく整えてくれる。利用しなくとも楽しめる空間として、ただ歩き、匂いと音に耳を澄ませる。鞆の浦は、そうして出会う「静かな贅沢」を教えてくれる港町である。緩やかな時間が流れ、江戸の街並みが残る「時間の重なり」が鞆の浦の真の美しさといえるだろう。

古い町並みが残る尾道の風景は、石畳の坂道や木造家屋、そして瀬戸内海の景色など、どこを切り取っても絵になる美しさである。こうした歴史的な景観が保たれているのは、住民たちの暮らしや文化がこの土地と深く結びついているから。

そんな尾道の魅力を体現するブランドの一つが「尾道デニム」。

尾道で働く人々がワークパンツとして1年間穿き続けてユーズドデニムを育てるという、世界に類を見ない方法で尾道デニムはつくられている。それぞれのデニムには「着る人の生活」が刻まれている。古い町並みが語る物語のように、尾道デニムもまた、一着一着が「人とまちとの関係」を物語っている。デニムは仕事の縮図が見られる場所で、美術館的役割もある。

 そんな多種多様な働き方によって生まれた、すべて一点ものの尾道デニムを対面販売しているのが、「ONOMITI DENIM SHOP」である。デニムショップ目的で尾道へやってきた人たちが、商店街内を歩くことで、全体が賑わうよう、あえて商店街の東端に店を構えている。

「物語を宿したデニムを通して、尾道の魅力や人と人とのつながりを発信したい」という想いが込められた尾道デニムプロジェクト。デニム一本一本の異なる表情と、それぞれに刻まれた物語を伝えるため、オンラインでの販売はしておらず、対面での販売に限定している。

2014年にオープンした、「ONOMITI U2」。

戦時中に建てられた海運倉庫をリノベーションした「まちの中の小さなまち」がテーマである、複合施設。外観は当時の面影を残しつつ、中に足を踏み入れると開放感あふれる空間が広がる。

レストランやカフェ、ショップが並ぶなか、一見変わったホテルが存在する。名前は「HOTEL CYCLE」。自転車を客室まで持ち込める国内でも珍しい宿泊施設で、しまなみ海道のサイクリストに人気なホテルである。CYCLEが指すもの、それは「時間の流れ」「循環」そして「自転車」。

 ホテルやレストランでは、厳しいマイナーな宗教に対しても柔軟に対応するため、世界中の誰もが利用可能である。海沿いの大きな倉庫をリノベーションしたこの建物は天井が高く開放的で、散策するだけでもワクワクする。サイクリング好きだけでなく、尾道を訪れる誰もが楽しめる、多彩で心地よい施設である。

広島県尾道市、千光寺に続く石畳の途中に建つ「LOG―Lantern Onomichi Garden」。

古いアパートをスタジオ・ムンバイがリノベーションした宿。ホテルはもちろん、カフェやショップ、ギャラリーもある複合施設。コンクリートの骨格や木、漆喰などの自然素材を多用して、柔らかい光と空気感のある落ち着きのある場所。尾道の坂道に面した高台にあるため、窓やテラスからは尾道の街並みが眺められる。内部はシンプルで落ち着きがあり、どこを切り取っても写真映えするような空間。


 若い世代に来てもらうこと、デザインに興味がある人に来ていただくことを大切にしている一方、地域の方が喜ばないことは絶対にしないということを重要視している。鞆の浦と同様、住人第一。そのため一般的なホテルとは違う。チェックイン時間は、15時から20時。夜遅くにガタガタ音がすると迷惑になるから。バーも同様、閉店時間を早めに設定している。近所の方たちが、ログができて良かったなって思ってもらえるようなことをしていきたい。

 一方カフェでは、尾道のフードロス問題に取り組んでいる。廃棄するイチジクや桃を引き取り商品化し、食の魅力発信にも力を入れている。また、スタッフの名刺にはコンシェルジュと書いてあり、ログ自身だけでなく、おすすめのお店を紹介するなどして、地域の方たちも稼げる仕組み作りも意識している。

尾道にあるシェアオフィス「ONOMICHI SHARE~オノミチシェア~」に訪れた。働くことと、遊ぶこと、どちらも大切にしたいという想いから始まった場所で、今の時代に合った新しい空間である。この施設は、もともと尾道市が書庫として使用していた建物をリノベーションし、2015年にオープンした。建物の外観は元の倉庫の形をそのまま活かしており、周囲のまちの景観が尾道のまち並みを壊さないように工夫されている。

中に入ってまず目を引かれたのは、海に面した大きな窓だ。そこからは尾道水道がみることができ、きれいな海と行き来する船、向こうには向島が見渡せる。尾道ならではの空間が出来ている。

また、室内のデザインも魅力的だった。倉庫の構造を活かし、天井は高く、パイプなどもあえて見えるようにすることで、開放感をある空間になっている。静かに集中したいときにも、リラックスしながら過ごしたいときにも、ぴったりな場所だ。

学生の私にとって、勉強やリサーチに集中できるだけでなく、尾道の風景を楽しみながら気分転換できる空間はとても魅力的だった。尾道を訪れる機会があれば、ぜひ一度立ち寄ってみてほしい。新しい発見や、心地よい時間がきっと待っているはず。

 尾道のまちを歩いていると尾道の地元の方や、立ち寄ったラーメン屋の店主にとても気さくに話しかけてもらった。「どこから来たの?」や「大学生?」と声をかけてもらい、まるで昔から知っている人のような親しみを感じることができた。観光客の私たちにも笑顔で接してくれるその姿に、尾道の人々の優しさがあふれていた。

 そんな人の想いこそが、この街の空気をつくっているのだなと感じた。穏やかな海や、古い町並みの美しさの背景には、人と人とが大切にしてきたつながりや思いやりがある。尾道の「まちの美しさ」は、単なる景観ではなく、人々の心によって育まれ続けている美しさなのだなと感じた。

今回の国内研修を通して、私たちは「人とまちと美」のつながりについて、多くの気づきと学びを得ることができた。尾道は、ただ美しい観光地ではなく、そこに暮らすまちの人々の想いが「まちの美しさ」へと表れている場所だった。

私たちが一番印象的だったのは、一つ一つの取り組みが単独で成り立っているのではなく、まち全体の流れの中で、お互いが影響し合いながら、尾道という地域の魅力を形成しているという点である。

「一個だけ素敵な場所があってもお客様は来ないんですよ。協力していかないと。同時多発的に何カ所かあると地域は活性化していくので。」

というLOGで働いている人の言葉が、今回の学びの本質を表しているように感じた。

「人とまちと美」は、別々のものではなく、互いを支え合いながら時間の中で育まれていくもの。私たちも地域とかかわる立場として、「どう関わり、どう未来をつくるか」を考え続けたい。

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